作:早川ふう / 所要時間 25分 / 比率 1:1 20230509(20200517) 利用規約はこちら
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一方通行シンパシー
【登場人物】
辻(つじ)
会社員の男性。面倒見がよく、明るい性格で周囲から好かれている。
最近会社の後輩と結婚したばかり。
橋本とは会社の同期で、その中でも一番仲がよく、
周囲から付き合っているのではないかと勘繰られることも多かった。
橋本(はしもと)
会社員の女性。多少不愛想だが、仕事には真面目なので、そこそこ評価もされている。
辻の奥さんは直属の後輩でもあった。
辻とは同期で、よく話しかけてくる辻に対して一応感謝しており、
よい友達付き合いを続けてきたが、周囲に誤解されたり、トラブルも何度かあった。
(駅のホームに立って電車を待っている橋本のところに辻がやってくる)
辻 「よお橋本。お疲れ、今帰りか?」
橋本 「辻もお疲れ。次の電車10分後だってよ」
辻 「知ってる」
橋本 「喫煙所、行かないでよかったの?」
辻 「もう行ってきたんだよ」
橋本 「あっそ」
辻 「吸ってたら、お前が電車を乗り過ごしたのを見かけたもんでな。
あまりにも綺麗な乗り過ごし方だったから、つい笑っちまったけど」
橋本 「ほんとイイ性格してるね」
辻 「何だよ、お前の仏頂面拝みに、煙草一本で終わらせて来てやったんだ。
俺めちゃくちゃ優しいだろう?」
橋本 「どこがよ?
いっぺん死んで生まれなおしてきたら?」
辻 「おいおいどうした辛辣さ250%。……生理か?」
橋本 「もう黙って」
辻 「……。何か、あったのか?」
橋本 「……」
辻 「訊いた俺が馬鹿だったな。何かなきゃそうなってないか」
橋本 「人の心読まないでよ」
辻 「まだこの時間だし、飲み行くか?」
橋本 「無理、お金ない」
辻 「そっか。俺も奢れるほどは余裕ねえなあ、給料日前だし」
橋本 「世知辛いね」
辻 「世知辛いな」
橋本 「おとなしく家で作り置きのカレー食べて、発泡酒でも飲むから気にしないで」
辻 「あ、もしかして、このあいだの残り?」
橋本 「うん、そう」
辻 「じゃあ俺も行くわ。軽く何かつまみ買ってこうぜ、そのくらいなら俺出すし」
橋本 「は? どうして彼氏でもないあんたが家に上がりこんでこようとするわけ?
迷惑極まりないんですけど」
辻 「何でだよ、こないだお前んちで飲み会したろうが」
橋本 「みんなで飲むのと、あんた一人を招待するのは違うから」
辻 「ったく、そこは融通きかせろよな」
橋本 「何でよ。辻はもうちょっと考えて物を言って」
辻 「考えてるって」
橋本 「じゃあどうしてそうなった」
辻 「だってお前、周囲に頼らねぇタイプじゃん」
橋本 「……っ」
辻 「まぁそれがわかってるのも、
こうやってお節介焼くのも、俺くらいしかいねぇし。
こうやって駅でばったり会ったんだから尚更、
俺に頼れという場面だよなあと」
橋本 「……何それ」
辻 「月並みだし、これは何度もお前には言ってることだけどさ!
何かあったんなら、溜め込まず愚痴れって」
橋本 「……あのさ。これも何度も言ってるけど、
そういう甲斐性って普通特別な女の子に使うものだと思うのよ」
辻 「お前は特別だろ。女は替えがきくが、親友は替えがきかねえんだから」
橋本 「うっわ最低!」
辻 「誉め言葉だな」
橋本 「ほんと、何でこいつこんなんで生きてるの?
とっくに女に刺されてそうなのに!」
辻 「そりゃ俺に甲斐性があるからだ、お前が今そう言ったんだろ」
橋本 「彼女が泣いてたって、私との約束を優先してた辻がッ」
辻 「そりゃこっちの方が約束先だったし、優先度だって高かったからな」
橋本 「それ恨まれて、お茶当番の時に何度邪魔されたことか。
頼むから社内恋愛してる時くらいは彼女最優先にしてほしかった!」
辻 「女ってそういうとこほんっと面倒くせぇよなー」
橋本 「そうよほんっと面倒くさいの。だから少しは考えて!」
辻 「ハイハイ」
橋本 「それに今は状況も変わったでしょ」
辻 「え? 状況って?」
橋本 「あんた新婚じゃない!! 奥さん大事にしなさいよ!」
辻 「おいおい、俺奥さん超大事にしてるってぇ」
橋本 「じゃあ私の家に一人で飲みに来ようなんて、金輪際思わないでください」
辻 「浮気でもない、キスもしないし手も繋がない、ただの同僚との家飲みでもアウトか?」
橋本 「当たり前! 一人暮らしの女の家なんて、奥さんにとってはホテル行ったのと一緒です!」
辻 「じゃあまた同期5人で飲もうぜ」
橋本 「んー……まぁそれなら、いいけど。
それも奥さんがいいって言ったらだからね?」
辻 「わかったわかった。
お前ちょうどいいところに住んでるから、こういう時助かるんだよな」
橋本 「感謝しなさい」
辻 「ハイハイ。あ、でも今度俺たち引っ越す予定なんだよね。
そしたら俺の家の方が利便性いいかも」
橋本 「えー、さすがに新婚家庭にお邪魔するほど、みんな厚顔無恥じゃないと思うけど」
辻 「俺は可愛い奥さんと買った新しいマンション見せびらかしたいけどなー」
橋本 「それで悦に浸れるのはあんただけでしょ。
せっかくの新居にあがりこまれて接待させられるんじゃ、
奥さんがかわいそうじゃないの!」
辻 「接待要求するようなヤツは同期にはいねえだろうが。
いいヤツばっかじゃなきゃここまで仲良くなってねぇよ」
橋本 「それがわかるから奥さんだって無理しちゃうでしょ。
そういうところから溝が生まれるんだから!!」
辻 「そういうもんかねぇ」
橋本 「そういうものです!!
ちゃんと奥さん大事にしなさい!!」
辻 「はは。ほんっと、お前っていいやつだな」
橋本 「違う。辻がアホすぎるだけ」
辻 「おまけに真面目」
橋本 「それはどうも」
辻 「どっちかっていうと、真面目の方は誉め言葉じゃねえぞ?」
橋本 「どっちかっていうと、真面目の方が言われて嬉しい」
辻 「ああそうかよ」
橋本 「まったく、ほんとアホなんだから」
辻 「俺? お前がアホだろ」
橋本 「何ですって?」
辻 「どうせ恋愛絡みで凹んでるんだろ?」
橋本 「……何でそう思うの?」
辻 「お前ぐらいの女が凹んでるんだぞ、恋愛じゃなくて何なんだよ」
橋本 「なっ、何よそれ」
辻 「あれ、自覚ない?
橋本は色々器用に立ち回るけど、恋愛に関してだけは超絶不器用だぞ」
橋本 「……それに関しては否定しないけど、
恋愛でしか悩まないみたいな言われ方は何でなの?」
辻 「だってそうだろ」
橋本 「……仕事のこととか」
辻 「お前仕事のミスは仕事で取り返そうと燃えるタイプじゃん」
橋本 「じゃあ、親とか親戚関係とか」
辻 「病気とかならありえるだろうけど、だったら普通に俺にも言えてると思うし」
橋本 「友達関係!」
辻 「俺幸せいっぱいだし、違うだろ」
橋本 「ちょっと!」
辻 「ん?」
橋本 「友達関係の悩みが100%あんた絡みだって自信はどこから来るんですかねえ!?」
辻 「そうだったじゃねぇか」
橋本 「そ、それは、元はと言えば辻が悪いせいじゃないの!!
というかそうじゃなくて、私にも他に友達はいるし、
ああでも辻みたいに困らせてくるようなやつはいないか、って、
そうじゃなくてもう!! 馬鹿!!」
辻 「ははは、おもしれー」
橋本 「うるさい!!」
辻 「とにかく、俺が結婚したんだから違うだろって話」
橋本 「……私に辻以外の友達がいないって言われてるみたいで
不愉快だ、って言いたかったんだけど」
辻 「それは被害妄想が過ぎる」
橋本 「ソウデスカネ」
辻 「それに、お前が悩むほどの友達は、俺しかいねえだろ」
橋本 「だから、その自信はどこから来るわけ?」
辻 「事実だからだ」
橋本 「……辻が面倒くさい友達なだけで。私の友達がみんないい子なだけだからね」
辻 「わかってるって」
橋本 「ならいい」
辻 「俺がお前の一番の親友なのはよーくわかってるからよ」
橋本 「はあ!? 調子に乗るなよ辻のくせに!!」
辻 「はいはい。ったく……そんで? いいから話せよ」
橋本 「……別に話すほどのことじゃないよ」
辻 「あのなあ、このまま家押しかけて話すまで帰らねーぞこら」
橋本 「絶対やめて!」
辻 「じゃあさっさと話せ」
橋本 「はぁ(溜息)」
辻 「どうした?」
橋本 「……何で辻は、いつも私の恋愛の愚痴聞いてくれるの?」
辻 「え?」
橋本 「てか、何で辻は、いつも気付くの?
私が凹んでる時、絶対に気付くじゃん」
辻 「バーカ。俺をなめんなよ。
伊達にお前の親友って自称してるわけじゃねぇんだ」
橋本 「……そっか」
辻 「……お前はいいヤツだ。
仕事だってしっかりやるし、真面目さは評価もされてる。
俺のことを心配したり、叱る優しさだってあるだろ。
だから、俺だって、お前が凹んでる時くらい、気付いてやりたいと思ってる」
橋本 「……」
辻 「俺は、話を聞くくらいしかできないけどさ、
お前みたいに無理ばっかする女が、少し吐き出せる相手でありたいわけだ」
橋本 「……なるほど。そんなこと言うから彼女が途切れなかったんだね」
辻 「俺に惚れたか?」
橋本 「有り得ない」
辻 「あっそ。あー橋本残念だったなあ?
俺が結婚してなけりゃあ一晩くらい慰めてやったんだけど」
橋本 「絶対、死んでも、お断り!」
辻 「知ってるよ、男嫌いなのは」
橋本 「ふん」
辻 「けど、ずーーっとお前を悩ませてるヤツのことは、好きなんだろ?」
橋本 「……まぁね。……あ」
(人身事故のアナウンスが流れてくる)
辻 「電車、人身事故かー」
橋本 「隣駅で止まってるって最悪」
辻 「ツイてねぇよなあ。すぐ動くといいけど」
橋本 「ほんとね」
辻 「……けど、ちょうどいいよな」
橋本 「え?」
辻 「話せよ」
橋本 「ああ……うん」
辻 「何があった?」
橋本 「……好きな人がね、……結婚しちゃったんだ」
辻 「っ……」
橋本 「……だから、さ。いよいよ、諦めなきゃって、思うのにね。
なかなか割り切れないっていうか」
辻 「そっか……きついな」
橋本 「うん。正直、きつい」
辻 「……今までも散々諦められなかったんなら
そのまま好きでいてもいいんじゃねぇか?」
橋本 「好きでいたって、つらいだけだよ」
辻 「諦めるのだってつらいんだろ。だったらそのままの方がよくねぇか」
橋本 「うーーーそんなシンプルじゃないんだけどなあ」
辻 「拗ねてんのか、可愛いな」
橋本 「だからそういう言葉を気安く言わないで!」
辻 「悪い悪い」
橋本 「……でも、好きで好きでどうしようもないんだ」
辻 「うん」
橋本 「……どうしたって叶わなくて。
向こうが私を見てくれることなんて、万に一つもなくて。
絶対に、絶対の絶対に無理なのわかってるの」
辻 「そんな恋、つらすぎんだろ」
橋本 「……本当はつらいって、言いたくもないの」
辻 「何で」
橋本 「つらいのなんて最初からわかってたのに、
弱音吐いて、悲劇のヒロインしたい自分が嫌になるから」
辻 「ふーん」
橋本 「でも、こうやって話してるのって弱音だよね。
きついともつらいとも言っちゃってるし。
自分でもわかってるよ、めんどくさいよね私」
辻 「いいんじゃねぇの。人間が恋をするとチンパンジーになるって言うしさ」
橋本 「チンパンジー?」
辻 「判断力が低下するんだってさ。
だから、自分できちんと考えてるようでも、ちゃんと考えられていないとか、
そういうのよくある話だから気にすんなってこと」
橋本 「そっか、うん……」
辻 「……俺さ。お前には、幸せになってほしいんだよね」
橋本 「何いきなり」
辻 「いきなりじゃねえだろ。
さっき凹んでるのを気付いてやりたいって言っただろうが」
橋本 「それがどうしてそう繋がるわけ」
辻 「大事なんだよ、言わせんな」
橋本 「…………」
辻 「ん? どうした?」
橋本 「……いや、だって……」
辻 「俺に惚れたか?」
橋本 「ちょっと富士山の火口に飛び込んで来い」
辻 「ひっでえ!!!」
橋本 「そういうのさらっと言うのやめなよね!
勘違いする子いっぱいいると思うよ!?」
辻 「お前はしないだろ」
橋本 「え」
辻 「お前は絶対しないだろ」
橋本 「……まあ、しないけど」
辻 「だからいいんだよ」
橋本 「……だからいい、のかなあ?!」
辻 「いいってことにしとけよ。
勘違いしないから、お前のこと大事なんだって」
橋本 「またさらっと言った!!!」
辻 「じゃあもっときちんと言うか?
それこそ、勘違いされそうな言葉だと思うぞ?
俺はこれでも考えた上で軽く言ってるんだからな?」
橋本 「あっそう……」
辻 「おう」
橋本 「…………でもさ」
辻 「なんだよ、デモデモダッテちゃん」
橋本 「それは否定しないけど。とりあえず聞いて」
辻 「何」
橋本 「……私の、知り合いにさ」
辻 「うん」
橋本 「同性愛者の子がいるのよ」
辻 「女? 男?」
橋本 「女の子」
辻 「ふうん」
橋本 「あ……辻は、こういうの平気?」
辻 「あー、俺偏見全然ない」
橋本 「そっか。私もない」
辻 「そんでその知り合いちゃんがどうしたって?」
橋本 「……その子も苦しい恋してんの」
辻 「ほう」
橋本 「その子は、学生の時からずーーーっと一人の女の子が好きなんだって」
辻 「一途か、いいねぇ」
橋本 「でも、その好きな子っていうのはもちろんストレートで。彼氏がいて。
私の友達はいわゆる【親友】ってポジションなのよ」
辻 「親友として好きな女のそばにいるのか」
橋本 「そう。でもね。
親友ではあるけど、付き合ってるんじゃないかってくらい一緒にいるの。
だから、話を聞くたび羨ましくなっちゃうんだ」
辻 「……あー、橋本からしたら羨ましいのかもしれないけどさ、
その子は、親友としてのラインを絶対に超えられないのにずっとそばにいるんだよな?
それ、きついの、わかるよな?」
橋本 「……うん、そうだよね。それは、うん、わかるの。
だって、私、辻に言われてるみたいに、
そんなきつい恋やめなよって言ったこと何回もあるんだ。
まぁその子は、簡単に気持ち捨てられないって結局そこに落ち着くんだけど」
辻 「どこかで聞いた話だな。なるほど、お前と気が合うわけだ」
橋本 「まぁね。……その話を聞いてたからさ。
私も、親友でいい、むしろ親友でいられればって思ったんだ」
辻 「うん」
橋本 「好きな人は結婚しちゃったけどさ。
好きな人の、世界一好きな人は、私じゃないけどさ。
……でも、世界一の、親友として、ずっとそばにいられたら、……って……」
辻 「実際、その想い人とはどうなんだよ。
今、親友って言えるくらい仲はいいの?」
橋本 「……微妙。仲はいいと思うけど、そこまでじゃないかもしれない」
辻 「そうか。ただ、それでいいと思うぞ」
橋本 「え?」
辻 「変に距離が近くなると、それこそ知り合いちゃんみたいに、ずっと気持ちを捨てられなくなる」
橋本 「……そうだね」
辻 「それにさ、所詮は親友なわけじゃん。
橋本を一番に考えることは絶対にないし、
多分、橋本の気持ちを遊びでも受け入れる、なんてこともしないだろう?」
橋本 「うん、絶対ないね」
辻 「俺の考えだけどな。
自分を大事にしてくれないやつを想い続けるって、俺は、アホだと思う」
橋本 「…………だよね」
辻 「……で、俺は、橋本がアホなのも知ってんだよな」
橋本 「……うん。……ほんと、わかってるのにね。どうして諦められないんだろう」
辻 「……告白してないからじゃね?」
橋本 「できないよ、告白なんて。……既婚者だよ?」
辻 「あー、それで万が一OKされたらやべぇな」
橋本 「その万が一はないだろうけどさ。
まず既婚者に告白するって、不倫する勇気がある宣言と一緒じゃない?
絶対軽蔑されると思うの。
で、そうなったら友達にも戻れないって考えるとさ、
告白する選択肢はないんだよねえ」
辻 「八方塞がりだな」
橋本 「……うん」
辻 「他に目を向けてみるってのは?」
橋本 「……誰か好きになれたら楽なのにって考えたよ。
でもどうしても、無理で」
辻 「……ったく。もうちょっと早ければなー。
俺が押し倒して忘れさせてやったのに」
橋本 「ブラックホールに飲み込まれろ」
辻 「ひっでえ!!!」
橋本 「ひどいのは辻だ! 奥さんに謝れ馬鹿野郎!」
辻 「何でだよ!!
俺何も行動してねえじゃん!
まだ未遂にすらなってねえのに!!」
橋本 「考えるだけで万死に値する!!」
辻 「お前を慰めようとしてんのに、どうしてこんな扱いなんだよ理不尽だ!!!」
橋本 「慰めなんていらないんだよ!!」
辻 「……かわいくねえの」
橋本 「……自覚はあるよ」
辻 「そうかよ」
橋本 「今度、その好きな人に会って、結婚祝い渡すの。
っていっても、何か物をあげるのもあれだから、
ごはん御馳走しようかと思ってるんだけどね」
辻 「ふぅん。まぁそれくらいでいいんじゃねぇの?
お互い、消えモノが一番楽だろ」
橋本 「私、その人の幸せは願ってるけど、結婚を祝えるほど人間ができてないんだ」
辻 「好きだったら、それが普通だよ、自虐する必要ない」
橋本 「……ありがと」
(電車が隣駅を発車したとアナウンスが聞こえる)
辻 「……あ。……電車来るのか」
橋本 「復旧早くてよかったね」
辻 「けど、止まってた分、混んでるだろうな」
橋本 「まぁそうだろうけど。この時間だからどのみち混むじゃん」
辻 「まぁな」
橋本 辻。ごめんね。
……ほんとは私もビアンで。
しかも辻のお嫁さんが好きで仕方ないなんて、
優しい辻はきっと考えもしないんだろうな。
好きな人も、友達も、私は両方裏切っているのに、
どうしても、この恋を捨てられない。
私、ほんと最低……。
辻 このまま背中をトンと押して、こいつを殺してしまえたらどんなにいいか。
俺になびいてくれりゃあ楽だったのに、ったく面倒くせえ。
俺の可愛い奥さんにたかる虫は、誰であろうと許さない。
友達だろうが関係ないね。
想われるのすら迷惑なんだよ。
これ以上あいつに近づくなら覚悟しろよ。
……最低? はっ、そりゃ最高の誉め言葉だ。
あいつは俺だけのもんなの。絶対誰にも渡さねえ。
橋本。……ごめんな?
橋本 「あ、電車来た。わーーやっぱり混んでるー」
辻 「お前潰されんじゃね?」
橋本 「あと5センチ身長が欲しかったなあ」
辻 「しょうがねぇなあ俺が守ってやるよ」
橋本 「いらん!!」
辻 「遠慮するなって」
橋本 「あんたが守るのは私じゃないでしょ!!」
辻 「同期の誼(よしみ)ってのもあるだろうが!
まぁ少しくらいは俺にときめいたっていいと思うけど?」
橋本 「辻にときめくくらいなら今すぐ死んだ方がマシ!!!」
辻 「ああそうかよ、かわいくねえなあ!」