作:早川ふう / 所要時間 25分 / 比率 1:1 20111210 利用規約はこちら
Sweet Merry X'mas
【登場人物】
早紀(さき)
甘いものに目がない、ちょっと素直じゃない女性。20代。
家庭の事情で早くから一人暮らしをしている。
亮一とはセフレという名の腐れ縁。
亮一(りょういち)
甘いものに目がない少し計算高い男性。20代。
早紀とはセフレという名の腐れ縁。
転勤を機に、関係を変えようとしている。
(ホテルのラウンジで、酒を飲みながら男女が話している)
早紀 「凡ミスしたのは先輩なのに、なんで私が後始末しなきゃいけないの!?
先輩をかばう上司も上司だよ、納得いかない!」
亮一 「もう酒はやめとけよ、ちょっと飲みすぎだ」
早紀 「気の遣いどころを間違わないでよ?
私は今日、すごーーく疲れてるんだから!!」
亮一 「はいはい、申し訳ありません。
(店員を呼び止める)
あ、すみません、えっと……」
早紀 「ハイボール!」
亮一 「……同じもので。あ、ひとつは薄めにお願いします」
早紀 「だからいらん気を遣うなっ」
亮一 「はいはい、それで!?」
早紀 「うわー……へこむ」
亮一 「は!?」
早紀 「扱いが雑」
亮一 「……そうか?」
早紀 「中学からの腐れ縁がやっと切れるの、嬉しい?」
亮一 「なんだよそれ。俺は早紀と縁が切れるなんて思ってないけど?」
早紀 「へ〜、そうなんだ?
海外転勤で何年も戻ってこれないのに?」
亮一 「つかず離れず、ここまでずっと付き合いも続いてたろう」
早紀 「まぁ、そうだけど。……考えてみれば人生半分以上一緒にいるもんね」
亮一 「よくここまで続くなと思うよ、自分でもな」
早紀 「そりゃあ、あれよ。……恋人じゃないからじゃない?」
亮一 「あー、そうきますかー」
早紀 「もともとほら、ねえ?
あんたが顔に似合わず甘いもの好きだから!」
亮一 「スイーツ男子なんて、今じゃ別に珍しくもないじゃないか」
早紀 「だってあんた当時高校生じゃん!
そんな言葉もありませんでした〜!」
亮一 「……俺はその……甘い青春を満喫してたんだよ……」
早紀 「ぷっ、それは苦しい……!」
亮一 「ったく……。こっちだってお前がそんなに口と性格に難のある女だとは思わなかったよ」
早紀 「そう?」
亮一 「初めて会った中一のときは、委員会が同じってだけで、接点はなかったし」
早紀 「中二で同じクラスになって、隣の席にもなったけど、別に話さなかったし」
亮一 「あんときはお前もクラスに馴染んでなかったしなあ」
早紀 「うるさいなぁ、余計なこと覚えてないでよね」
亮一 「中三は別のクラスだったけど、進路指導室で一緒になったの覚えてるか?」
早紀 「覚えてるよ、舌打ちしたもん。同じ高校行く気なのか、って」
亮一 「お前わざわざうちの中学から誰も行かないような遠いとこばっか選んでたよなぁ」
早紀 「引っ越し先から近いところを探してたの!
その中でも、みんなが行かないようなところを選んではいたけどさ…」
亮一 「結局高校入ってみれば、俺たち二人だけだったな」
早紀 「あんただけでよかったよ……事情知ってて何か言われんのもやだし」
亮一 「で、その結果、部活帰りの俺の密かな楽しみを目撃されてしまうことになった、と」
早紀 「大げさな」
亮一 「コンビニの新商品とか、ファーストフードのスイーツならまだ言い訳ができたのに…」
早紀 「カフェのショーケースに張り付いて、真剣にケーキを選んでる男子高校生ッ……
あれは浮きまくってたなぁ、うん」
亮一 「まさか同じ店にお前がいるなんて、何の因果だ!!」
早紀 「家で食べればいいのに、イートインにする勇気にも感服したわぁ」
亮一 「腹へってたんだよ!!
大体お前だって、いきなり俺の席にきて、
『美味しいのはもうひとつ出てた新商品の方だよ、そっちはハズレ。残念でした〜』
とか言いやがっただろ!! ちゃんと覚えてんだぞ!? 人としてどうなんだ!!!」
早紀 「親切に教えてあげたんじゃない」
亮一 「いやまぁ確かにあん時のケーキの味はいまいちだったけど、
お前はいつも一言余計だっつーの」
早紀 「文句言うなよー」
亮一 「はぁ……。まぁ、お前の情報だけは、それ以来信頼してるわけだがな」
早紀 「ありがと。へへ……うん、甘味友達ってのも悪くないよね」
亮一 「まぁ、な」
早紀 「今日も、誘ってくれて嬉しかったよ。
クリスマスディナー限定スイーツなんて、ひとりじゃ食べにこれないしさ〜」
亮一 「彼氏は相変わらずいないのか?」
早紀 「いるわけないじゃん。いたら来ないよ」
亮一 「恋、しないのか?」
早紀 「めんどくさい」
亮一 「そっか……」
早紀 「ねえ亮一」
亮一 「ん?」
早紀 「私を誘ってくれたのはありがたかったけどさ、
今日私の予定があいてなかったらどうするつもりだったの?」
亮一 「あいてただろ」
早紀 「まぁ、そうだけどね、もし! あいてなかったら!?」
亮一 「奢りだ、って言えば喜んでこっちに来ると思ってたよ」
早紀 「ぐぬぬっ……そんなことないっつーの。
てか、ほんとにいいの?
奢りって言われたけど、自分の分くらい払うよ私?」
亮一 「別にいいって。半額で買い取ってるから、出費は実質ひとり分だし」
早紀 「それはそれだよ!
大体送別会だっつっても、急に誘うから餞別になにか買う、なんてこともできなかったし」
亮一 「いらないって」
早紀 「私これでも義理堅い女のつもり!」
亮一 「あーはいはい。じゃあ、少しだけ酒飲むペースと声のボリュームおとしてくれ」
早紀 「あ!!!」
亮一 「人の話聞いてないだろお前」
早紀 「ねえねえ!」
亮一 「なんだよ」
早紀 「友達がーとか言う話って自分のことだったりするじゃない。
ひひっ、亮一が彼女にフラれた、ってオチじゃないのぉ?」
亮一 「ばっ、違うって!! 同僚がって話しただろ?!」
早紀 「へ〜〜。まあ、そういうことにしておいてあげてもいいけど〜」
亮一 「そういうことに、ってそれが真実なんだけどなぁ」
早紀 「ふーん。……で、今日はどーすんの? そろそろ終電だけど、これでお開き?」
亮一 「お開きの方がいいか?」
早紀 「どっちでもいいけど」
亮一 「一応宿泊券なわけだし、俺は泊まっていくつもりだけど」
早紀 「……だったら、私も泊まろっかな。
こういうとこ泊まる機会もなかなかないし〜」
亮一 「そっか」
早紀 「それに当分会えないんでしょ?」
亮一 「まぁ、な」
早紀 「餞別がわりに沢山ヤればいいよね!!!」
亮一 「だから声がでかいし下品すぎるっつーの!」
早紀 「今更でしょ?」
亮一 「あーあ、なんでこうなったんだか……」
早紀 「なんで、って…高三のとき、押し倒してきたの誰だっけー?」
亮一 「あースイマセンねー、がっついてー」
早紀 「まったくだよ」
亮一 「でもあれはお前も悪いんだぞ!?」
早紀 「なんでよ?」
亮一 「そんときまで俺はお前が一人暮らししてるなんて知らなかったし、
そこに男を連れ込むって……襲った俺が言うのもなんだけど、非常識だぞ!?」
早紀 「CD貸せっつったの亮一じゃん」
亮一 「そーだけど! 俺の目の前で着替えるか普通!!」
早紀 「美術の時間に汚れちゃったシャツを早く洗いたかったの!」
亮一 「危機感もてよ……」
早紀 「今は多めに装備してますから大丈夫です!」
亮一 「ったく……」
早紀 「でもさ……それ以来、スイーツときどきセックスみたいな変なトモダチになっちゃったよね」
亮一 「最初っからずっと、抵抗しない、したことすらないお前が悪い」
早紀 「したじゃん、アレんときはやだって」
亮一 「だーかーらー!」
早紀 「なに」
亮一 「問題はそこじゃねえっつーの!」
早紀 「なによ」
亮一 「だから……その……」
早紀 「なに」
亮一 「…………」
早紀 「……なに!?」
亮一 「あーーもーーー! なんでお前はそう他の女と違うんだよ!」
早紀 「はあ!?」
亮一 「考え方も、行動も、なにもかも!」
早紀 「失礼ね! 女じゃないって言いたいの!?」
亮一 「普通! ……女はセフレにされてりゃ嫌がるもんじゃねえのか!?」
早紀 「……さらっと言ったな、セフレにしてる超本人が」
亮一 「うるせえ!」
早紀 「……まぁ、さ。言ったじゃん、甘味友達、って。
たまに一緒に甘いもの食べにいくのと同じ。
たまにセックスするだけでしょ」
亮一 「……それだけ?」
早紀 「それ以外の何があるの?」
亮一 「……そっか」
早紀 「……そろそろ部屋行かない?
別にするしないはどっちでもいいからさ」
亮一 「そう、だな……」
(間)
(ホテルの部屋にて)
早紀 「で、結局3回もするってどうなの? あんた元気だよね……」
亮一 「ほっとけ」
早紀 「うー……このまま寝ちゃおうかなあ」
亮一 「お前、さ」
早紀 「なにー?」
亮一 「俺のこと、どう思ってんの?
本当は、その、うら……、後悔したりしてる?」
早紀 「いきなりなによ」
亮一 「わかんねーんだよ。お前、拒否らねーから」
早紀 「どういう意味?」
亮一 「甘いもん食いにいくか、って誘えば、いいよってついてくるだろ」
早紀 「うん」
亮一 「するか、っつったら、泊まるだろ」
早紀 「そうだね、今日みたいに」
亮一 「……お前の気持ちが見えない」
早紀 「はぁ?」
亮一 「お前って、誰に対してもそうなの?」
早紀 「何が?」
亮一 「誘われたらついてくのかよ?」
早紀 「……そんな女に、見えますか?」
亮一 「わからねぇから訊いてんだよ」
早紀 「シャワー浴びてこようっと」
亮一 「待てって」
早紀 「やだ」
亮一 「話途中だろうが」
早紀 「汗かいたし! シャワーくらいいいでしょ!」
亮一 「おい!」
早紀 「なんで!? なんで今更そんなこと言うの!?」
亮一 「え……」
早紀 「海外、行くんでしょ?」
亮一 「そうだけど……」
早紀 「ここで私はどうすればいいの?
あんたなんか別に何人もいるセフレのひとりで、
好きでも嫌いでもないから、とか言えばいいの?
それとも、あんただからだよ、とか、色気のある答え言ったら満足なの?」
亮一 「それは……」
早紀 「なに」
亮一 「……悪かった、って……思ってるんだよ、これでも」
早紀 「……なにが」
亮一 「ずっと、ずるずる曖昧な関係続けてきたこと」
早紀 「……そう」
亮一 「俺も海外行くし、終わりにしないとな、って……」
早紀 「それで?」
亮一 「いや、だから……」
早紀 「終わりを切り出したら何かされるんじゃないかって思ってる?」
亮一 「そうは言わないけど……お前、ポーカーフェイスすぎるんだよ……」
早紀 「女はみんな嘘つきなものよ」
亮一 「嘘だとわかる嘘つきな女はたくさんいるけど、
お前みたいな女はなかなかいない」
早紀 「それはどうも」
亮一 「褒めてねえよ」
早紀 「あっそう」
亮一 「でもさ、……俺が思うお前は、口が悪くて、強がりで、不器用で……弱い女だよ」
早紀 「弱い!? わー、初めて言われたなぁ」
亮一 「弱いところなんて、一度も見た事ねぇけど」
早紀 「でしょうね」
亮一 「ちょっと何か言われたくらいで弱いところを見せるような女はさ、
『強がってるけど本当は弱い女』に見られたいだけだろ」
早紀 「へー、わかったようなこと言うじゃん」
亮一 「だから、お前は、本当に強がってるんだな、って思うんだ。
強く見せたいから……つまりは弱いから」
早紀 「私が本当に強い女だっていう選択肢はないの?」
亮一 「それは……考えたことなかった」
早紀 「失礼なヤツ」
亮一 「今更だろ?」
早紀 「そうだね」
亮一 「……お前は?」
早紀 「ん?」
亮一 「お前から見て、俺ってどんな男?」
早紀 「なにそれ」
亮一 「いいから答えろよ」
早紀 「んー……バカ、かな」
亮一 「……訊かなきゃよかった」
早紀 「女好き。ダメ男。ヘタレ?
いや、やっぱり、バカって言葉が一番しっくりくるかなあ!!」
亮一 「それ以上言わなくていい……」
早紀 「私と同じくらい、バカだなって思うよ」
亮一 「え?」
女 「セフレとクリスマス過ごしてないで、ちゃんとした恋愛して幸せになればいいのに」
亮一 「そーだな」
早紀 「それに、結婚したあとにまで女遊びやめられなかったら、破滅だよ?」
亮一 「そこまで甲斐性ナシじゃねえ」
早紀 「どうだか。そうならないようにこれからも見守ってあげるよ、友達として」
亮一 「……友達か」
早紀 「終わりにする、って言ったのはするかしないかってことでしょ?
それとも友達の縁を、切りたいの?」
亮一 「そういうわけじゃ」
早紀 「別に、昔あんたとデキてたとか、言いふらすつもりないよ? まずそんな相手もいないし。
まぁ、信用してもらえないなら仕方ないけど」
亮一 「だからそういうんじゃなくて!」
早紀 「……? なによ?」
亮一 「お前、仕事……辞めれば」
早紀 「は!? ちょっといきなり何言い出すのよ!?」
亮一 「合わないんだろ? 仕事も人間関係も」
早紀 「それで職変えるほどガキじゃないけど」
亮一 「……スーツ」
早紀 「え? スーツ?」
亮一 「俺のスーツ」
早紀 「自分でとりなよ」
亮一 「ちげえ。いいから、俺の上着の左ポケット。……見て」
早紀 「(四つ折りにされた紙を見つけて)……! これって」
亮一 「仕事辞めてさ……俺んとこ来いよ」
早紀 「…………なんの冗談?」
亮一 「はあ!? 冗談でこんなもんまで用意しねえだろ!?」
早紀 「いや、むしろ……冗談だから用意するでしょこれは」
亮一 「なんで!?」
早紀 「これが指輪だったらまだ本気かもって思うけどね、
いきなり婚姻届って、元手もかかってないのにさあ〜」
亮一 「判断基準は金かよ!?
女ってこえーーーーーーーー!!!!!!」
早紀 「え、普通そう思わない?」
亮一 「いや普通は、その、指輪のサイズなんて男はわからないわけで。
サプライズで用意するには無理がある。
その点婚姻届は、俺の本気をわかってもらうにはうってつけ。
指輪を、一緒に買いにいこうって言えば完璧かと」
早紀 「まぁなんとでも言えるだろうけどー……」
亮一 「本気なんだって!!! それはわかれよ!!!!」
早紀 「逆ギレしないでよ! ますます疑わしい!」
亮一 「……ったく。なんでお前とはこうなんだ……。
雰囲気もなにも最初っからあったもんじゃねえ……」
早紀 「かっこつけなくて済む分、楽でしょ?」
亮一 「かっこつけたいときだってあるんだよ、男なんだから」
早紀 「そっか。……そうだね。
女だってかっこつけたいときあるもんなぁ」
亮一 「へーお前でもそんなときあるのか?」
早紀 「そりゃああるよ」
亮一 「たとえば?」
早紀 「……失恋を覚悟したとき、とか」
亮一 「……失恋!? 恋は面倒だって言ってたお前が!?」
早紀 「面倒だよ。ちっとも思うとおりにならないんだもん。
相手も……自分の感情も」
亮一 「それが、恋ってもんだろ」
早紀 「まぁね。んー……好き、って言葉はさ、言わなきゃ伝わらないじゃん?」
亮一 「そうだな」
早紀 「……ずっと言わなかった、言えなかったからさ。
これで終わりかって考えたら、言おうかとも思ったけど、
でも、これで終わりだから、言わないっていうのもアリかなって考えて。
いつもの自分を演じてみたりしてさ」
亮一 「お前でもそんなカワイイことするんだな」
早紀 「失礼なヤツ」
亮一 「今更、だろ?」
早紀 「ふふ、そうだね」
亮一 「……で、その男とは? どうなったんだよ?」
早紀 「え? どうって……」
亮一 「今までお前が恋愛してこなかったのって、
もしかしてそいつを忘れられないから、か?」
早紀 「忘れられないから、っていうか……
普通、好きな人がいるのに、他に恋愛はしないよね」
亮一 「……だよなぁ」(がっくり肩をおとす)
早紀 「なーにわかりやすく肩落としてんの!?
世界が終わったみたいなカオしてばっかみたい」
亮一 「だって、そいつが好きなんだろ?
……ってことは、俺は一人寂しく海外行き決定じゃねーか」
早紀 「あんたってほんっとバカ……」
亮一 「傷口に塩すりこむな」
早紀 「自分で傷口広げてるくせに」
亮一 「うるせえ」
早紀 「……私のことわかりにくいってずっと言ってるけど、
あんたが鈍感なだけなんじゃない?」
亮一 「俺のどこが」
早紀 「んー、何て言えばいいかなぁ……。
あ、そうだ! ……あんたみたいなバカは知らないと思うから教えてあげるけど」
亮一 「なんだよ」
早紀 「処女が初体験しても、血が出ない場合って結構多いんだよ」
亮一 「いきなり何の話をしてんだよ!!!!」
早紀 「私もさ、高三のときに初体験したけど、血は出なかったし」
亮一 「それが今何の関係が……、ん? ……高三?」
早紀 「そう、高三」
亮一 「……」
早紀 「……」
亮一 「……」
早紀 「『いや、まさかな』って思ってるだろうけど、
あんたが今頭の中で考えてることであってると思うよ」
亮一 「う、嘘だろおおお?! お前それ、なんで……」
早紀 「嘘じゃないよーイッツ真実〜」
亮一 「だって、お前……あんときどっかからゴム持ってきて、使えって言ったよな!?
だからてっきり慣れてるものかと……」
早紀 「するときは普通つけるでしょうが!
大体アレ、中学のとき保健の授業でもらったやつだよ。
あんたも同じの持ってたんじゃないの?」
亮一 「そうだっけ!? ……気付かなかった」
早紀 「まぁ、別にいいんじゃない?」
亮一 「……なんか、ごめん。俺……」
早紀 「何で謝るの? 謝ってほしくて言ったわけじゃないんだけど」
亮一 「だって……。あんときは俺も初めてだったとはいえ、気づかなかったのは情けねーな……」
早紀 「…え!? あんたも!?」
亮一 「何驚いたカオしてんだよ」
早紀 「いや、てっきりあんたこそ慣れてるもんだと思った……」
亮一 「…なんで。必死だったんだぞこっちは」
早紀 「へー……。 …あははは、そうだったんだ〜」
亮一 「さわやかに笑うなよ!こっちは今いろんなショックで頭いてーよ!」
早紀 「なにがショック?」
亮一 「いろいろ」
早紀 「まぁ、いーけどさ。……で、いつ?」
亮一 「なにが?」
早紀 「だめだこいつ。頭まわってないでしょ。
あ、そっかぁ、3回も出したしね〜。ちょっと寝とく?」
亮一 「ちょっと黙ってろマジで」
早紀 「私、シャワーいこ〜っと」
亮一 「いってこーい」
早紀 「一緒に入る?」
亮一 「今そういう冗談いらん」
早紀 「なんでー、冗談なんかじゃないよー、結構本気」
亮一 「尚更悪い」
早紀 「……あのさぁ、まだわかってないみたいだけどさ」
亮一 「あーわからないね! お前の考えてることはほんっとわからん!!!!」
早紀 「……。ねえ。」
亮一 「んー」
早紀 「今日、クリスマスだよね」
亮一 「そーだな」
早紀 「キリスト教徒じゃないけどさ、私、今日だけは神様に感謝してもいいかも」
亮一 「……へー、なんで?」
早紀 「だからいい加減、気付けよ」
亮一 「何がだよ」
早紀 「いらつくなぁ……いつまでも辛気臭いカオしてないでよ!」
亮一 「うっせえ! 誰のせいだ!」
早紀 「お前のせいだ!」
亮一 「なんだと!?」
早紀 「……あ」
亮一 「……あ?」
早紀 「ねえ、さっきのさ、続き、ちょっと、聞かせてよ」
亮一 「さっきの続きってなんだよ」
早紀 「『俺の上着の左ポケット。見て』
『仕事辞めてさ、俺んとこ来いよ』 の、続き」
亮一 「ほんっとにお前ッ……ひっっでえ女だな!!!」
早紀 「いいじゃん、それって一応プロポーズなんでしょ?
何て言って口説くつもりだったのさ?」
亮一 「……笑うなよ?」
早紀 「さあ、内容によるけど」
亮一 「『パリのレストランで、一緒にウェディングケーキを食べませんか』」
早紀 「……ぷっ」
亮一 「おまッ……」
早紀 「あははははははははははははは!!!!!!」
亮一 「最低だ!! 信ッじらんねーこの女ァ!!!!」
早紀 「ごめんごめん! あはは、だって、ふふ、あんたらしいなって思ってさ、あはは!」
亮一 「もうお前黙れマジで!」
早紀 「で、海外転勤いつからだっけ?」
亮一 「一月の下旬には出発だけど」
早紀 「んー……それだと厳しいな。春にはそっち行けると思うんだけど」
亮一 「あ?」
早紀 「引継ぎもあるし、すぐは仕事辞められないからさ」
亮一 「え?」
早紀 「あ、指輪だけど、高いものじゃなくていいからね。
二人で買いに行くんでしょ? いつ?」
亮一 「おい……お前……」
早紀 「だから……あんたがわかってないだけだ、って言ったでしょ」
亮一 「ホントに? いいのか?!」
早紀 「婚姻届けが冗談じゃないならね」
亮一 「イッツ真実! めっちゃ本気!」
早紀 「じゃあ、お店ピックアップして、時間ある時買いにいこ」
亮一 「お、おう!」
早紀 「……なんか眠くなっちゃったなぁ。このまま寝ちゃおっかなー……」
亮一 「え、風呂は?」
早紀 「いいや、起きてからで」
亮一 「そっか」
早紀 「おやすみ〜」
亮一 「おう……」
早紀 「ん」
亮一 「……なあ」
早紀 「んー?」
亮一 「……メリークリスマス」
早紀 「……、……メリークリスマス」