作:早川ふう / 所要時間 20分 / 比率 2:0 20150322 利用規約はこちら
初心者の語るボーイズラブ
【登場人物】
A 井坂護(いさか まもる)
井坂屋寅衛門(いざかやとらえもん)、執事セドリック役を劇中で演じます。
フリーのライターで、生活は極貧。ちょっと抜けた性格。
B 高野悟(たかの さとる)
御代官様、レオンぼっちゃま役を劇中で演じます。
アプリ制作会社の企画担当者。護とは幼馴染。
A 「お代官様、本日はこのようなむさくるしい場所へお越しいただき、痛み入ります」
B 「よいよい。挨拶は無用。お主と儂の仲であろう」
A 「お代官様にご健勝であっていただかねば、甘い蜜が吸えなくなりますからな。
私どもは、ご尊顔を拝し、ご挨拶させていただいて、やっと安心ができるものですから」
B 「わかっておる。しかしのう」
A 「では失礼をいたしまして。(代官の傍へ行く)
ささ、お代官様、ご一献」
B 「うむ……とと。(飲んで)今宵の酒は格別だのう」
A 「それはそれは。ご用意した甲斐があるというものです。
料理も運ばせましょうか」
B 「いやいやそれよりもだな」
A 「はい」
B 「井坂屋、出し惜しみをするな」
A 「お代官様の御所望は……」
B 「儂の好物を持ってきたのであろう?」
A 「勿論ご用意してございます。南蛮渡来の金平糖……」
B 「……うむ」
A 「もちろん、黄金色の菓子も、下にちゃあんと敷き詰めてございますよ」
B 「……むむ……確かに……」
A 「……おやおや。難しい顔をなさっておいでですな」
B 「そちは何故そう勿体つけるのだ!!!」
A 「勿体つけてなどおりません」
B 「願いは叶えてきたであろう。
井坂屋が藩御用達になったのも儂の口利きがあってこそだ!」
A 「ええ、感謝しておりますからこそこうやって
お代官様に幾度となく御礼の席を設けているではありませんか」
B 「……桐の箱は見飽きたのだ」
A 「確かに。毎度金平糖では芸がありませんね。
申し訳ございません、次は別の菓子にいたしましょう」
B 「そうではない!」
A 「……では黄金色の菓子の量を増やせと仰せで?」
B 「……井坂屋!
儂の言いたいことはわかっておるはず。何故そのようにはぐらかす!?」
A 「要領をえませぬな……ご不興をかってしまいましたか」
B 「……儂が帯をほどかねば、そちはわからぬと申すか」
A 「お代官様」
B 「儂を抱け!」
A 「……」
B 「……あの日のように、儂を抱けと申しておる、井坂屋寅衛門」
A 「お戯れを……」
B 「戯れで斯様な醜態は晒さぬ!!
儂は……本気で、そちと……」
A 「お代官様、……あの日の無礼は幾重にもお詫びいたします。
どうか、どうかご容赦くださいませ」
B 「そんなにも儂を抱きたくはない、と」
A 「そうは申しておりませぬ!」
B 「では何故!!」
A 「……お代官様……」
B 「儂はお主の願いを叶えた。
今後とも井坂屋が大きくなるよう取り計る。
然らば寅衛門、お主も儂の願いを叶えるが道理。
さもなくば斬って捨てる!!」
A 「……」
B 「これでも……儂を抱かぬと申すか」
A 「お代官様……」
B 「寅衛門!!」
A 「……。
仕方ありません。……不肖井坂屋寅衛門、一肌脱ぎましょう。
……金平糖よりも、黄金の菓子よりも、
このわたくしが欲しかったのでしょう、お代官様」
B 「んっ……」
A 「……可愛いあなたが見たかったので、
すこぅし、意地悪を言ってしまいました」
B 「寅、衛門……」
A 「あちらの部屋にきちんと支度は整えてございます」
B 「底意地の悪い男よ……」
A 「ささ、参りましょうか、お代官様……」
(間)
B 「どうしてこうなった……」
A 「ん? どうした?」
B 「小一時間ほど問い詰めたいんだが」
A 「何をだよ?」
B 「……お前のその屈託のない表情が余計……。
まぁいい、それでどうなるんだ?」
A 「このあとか? そりゃ勿論
『ああっそんな激しいぞ寅衛門っ!』
『望んだのはお代官様でございます』
『あーれぇぇぇぇ』って展開になるんだ!」
B 「……うん。まぁそうだろうと思ってたよ」
A 「どうだこれは! 結構イケてると思うんだが!」
B 「……一部のマニアには、ウケるんじゃないかとは思うが、
イケてはいないと思う……」
A 「ええっ!?」
B 「お前、こんな企画が通ると本気で思ってたのか?」
A 「普通に自信あったんだけど……」
B 「お前にボーイズラブアプリの新規企画を頼んだ俺がバカだったよ」
A 「そんな! 待てって!
俺降ろされるの!?」
B 「ちゃんとした企画にならない以上、お前以外のライターに頼むから」
A 「それは待ってくれって!! マジ頼むよ!!
フリーのライターがどんだけチャンスを待ってるか知ってるだろう!?
もう俺は、企業の言ったとおりの映画の批評や、グルメリポートなんざ書きたくないんだ!」
B 「そう言うなら、このチャンスをモノにできるだけのアイディアを出せよ!!」
A 「も、もう一本考えてきてるから聞いてくれよ!」
B 「もう一本?」
A 「実は、さっきのよりこっちの方が自信作なんだ!!」
B 「……本当に自信作か?」
A 「ヨーロッパの貴族だ!
貴族と執事! どうだ!?」
B 「王道すぎて腐女子たちの評価も厳しくなるのが目に見えてるが」
A 「うっ……そうなのか……!?」
B 「まぁいい。とりあえず話を聞こう」
A 「おう!」
(間)
A 「ぼっちゃま。そろそろ起床のお時間でございます」
B 「もう起きてる」
A 「(部屋に入って)珍しく早く起きられたのですね」
B 「珍しくとはなんだ珍しくとは!」
A 「そのままの意味でございますよ、ぼっちゃま」
B 「おいセディ」
A 「はい、何でございましょう」
B 「いい加減僕をぼっちゃまと呼ぶのはやめろ」
A 「しかし、ぼっちゃまは……ぼっちゃまでございますから」
B 「もう子供じゃないんだ。いい加減恥ずかしい」
A 「ぼっちゃまが伯爵家を継がれたその時には、旦那様とお呼び致しますよ」
B 「いつになることやら。
親父はまだまだ元気だからな……」
A 「旦那様を親父などと……
平民のような言葉遣いをなさっているうちは、まだ子供と言われても仕方ありませんね」
B 「まったく口が減らないな……」
A 「口が過ぎるようでしたら申し訳ございません」
B 「と言いつつ、そのカオは謝ってるふうではないなセディ」
A 「ぼっちゃまこそ、いつまで私をセディと呼ぶおつもりですか」
B 「昔からそう呼んでるんだから、別にいいだろう?」
A 「執事の名前を略称でお呼びになるのはいかがなものかと」
B 「公の場では気を付ける」
A 「……普段からきちんとしていないとボロが出ますよ?」
B 「セディはセディだからな」
A 「では私も、昔から呼んでおりますので、いつまでもぼっちゃまとお呼びしましょう。
ああ、勿論、公の場では気を付けますが」
B 「どんなあてつけだよ……。
大体お前、昔は俺を名前で呼んでいたじゃないか」
A 「若気の至りです。
今は執事として、分をわきまえておりますので」
B 「……嘘くさい笑顔だな」
A 「何かおっしゃいましたか?」
B 「いや、何も……」
A 「さ、ぼっちゃま。お支度を」
B 「……セディ、脱がせろ」
A 「……ご自分でされないのですか?」
B 「執事の仕事を与えてやってるだけだ」
A 「仕方ありませんね……。では脱がせてさしあげましょう……」
B 「んっ…… 下手くそ!
どうして、そう……触らなくてもいいところを! 触るんだ!」
A 「こうしてほしかったのでしょう?」
B 「あっ……やめろ! あんっ……!」
A 「乳首もこんなに上を向いて……。……おや」
B 「うっ……」
A 「乳首だけではなく……ここも勃たせて……」
B 「あっ……!!」
A 「起きたばかりでもこうまで元気ではありませんよね? ぼっちゃま」
B 「や……それは……」
A 「ただ朝の支度をしているだけで、どうしてこうなるんです?
……はしたない!」
B 「っ……!!」
A 「ああ……シミができてしまいましたね。
そんなに濡らして……」
B 「んっ、あっ……はぁ……はぁ……」
A 「息を荒げて、……どんどん大きくして……」
B 「ああっ!!」
A 「触っただけでこんなに悦んで……
躾のなっていない犬でも、ぼっちゃまよりは大人しいですよ」
B 「やめ……触るな……っ」
A 「言葉では拒否していても、身体がこうも悦んでいては説得力のカケラもありません。
こうして、扱いてほしかったのでしょう。
本当に、恥ずかしいほどの淫乱だ」
B 「あっ!! あんっ、あんっ……!!」
A 「さあ、おねだりしてごらんなさい。
きちんとできたらご褒美をあげましょう」
B 「ああっ……!
……い、イかせて……ください……」
A 「……誰に、イかせてほしいんです?」
B 「せ、セドリック……様……」
A 「ふっ……、堕ちたときのあなたが大好きですよ、レオン……」
(間)
B 「……いっくらなんでもワンパターン過ぎる」
A 「えっ!?」
B 「お前の引き出しのなさが露呈してるな」
A 「ぐっ……引き出しのなさって……地味に傷つく……」
B 「今聞かせてもらった話、どちらも所謂下克上ストーリーだよな」
A 「下克上?」
B 「社会的立場の弱い者が、一転して攻め手にまわる話を、下克上と言うんだ」
A 「へえ、そうなのか」
B 「井坂屋寅衛門にしろ、執事のセドリックにしろ、
代官やぼっちゃまといった仕えるべき人間を組み敷いてるわけだからな。
……せめて逆カップリングでもよかったんじゃないのか」
A 「……なんとなくそれは思いつかなかったんだよな」
B 「とりあえず、これじゃ使えない。ボツ!」
A 「うわああああああああああああああ……」
B 「……いきなり降ろしはしないよ。
もう一度、練り直して考えてみてくれ」
A 「!? いいのか!?」
B 「お前と何年の付き合いだと思ってんだよ。
ガキの頃から一緒だったんだ、そう簡単に見捨てないって」
A 「サンキュー!」
B 「……けど、ほんと次は企画会議に出せるレベルのものを頼むよ。
俺にも立場ってもんがあるんだからな」
A 「わかってる!
せっかくお前がチャンスをくれたんだ!
がんばるさ!!」
B 「……まあ、あまりムリはしないように」
A 「おう!
にしても、下克上か……下克上ね……」
B 「どうした?」
(間)
A 「どうせ俺は才能ねーよ。
小金もらって宣伝記事書くぐらいしか能がねーよ!」
B 「急にどうしたんだよ」
A 「お前はいいよな!
ちゃんとした会社に就職してよ、その若さでアプリ開発の責任者だろ!」
B 「責任者って、そんな大層なもんじゃないぞ……。
大体、お前は物書きになりたいって夢を叶えてるだろ。
なのにどうしてそんなに卑屈になるんだよ」
A 「夢なんか叶えたって、生活できなきゃ意味ねーんだよ」
B 「……」
A 「お前、俺のこと見下してるだろ」
B 「おい、怒るぞ」
A 「ガキの頃から一緒だったのに、どうしてこうも違うんだ……」
B 「俺とお前は違う人間なんだから仕方ないだろ?」
A 「そういうことじゃねーんだよ!!」
B 「落ち着け!」
A 「なあ、担当様よ。
どうしたら俺を採用してくれるんだよ……」
B 「冷静になれ。おかしいぞお前。
企画なら、ちゃんと待つって言ってるだろ」
A 「どうせ俺には書けねーよ。
……だったら、もうなんだっていい……」
B 「自棄になるな。時間はあるんだ。しっかり作ってくれれば……っ!??!」(押し倒される)
A 「昔からそうだった……。
いつもお前はデキるヤツで。
俺はいつもお前に助けてもらわなきゃ駄目だったもんなァ?」
B 「そんなふうに思ってたのか……?」
A 「……俺はそんなお前がずっと好きだった……。
けど言えなかった!
こんな俺が! お前に何を言えるってんだ!?」
B 「井坂……」
A 「……けどもうどうでもいい……。
実力行使だ……!!」
B 「あッ……やめ……やめろっ……んっ……離せッ……!!」
A 「ごちゃごちゃうるせぇ。
大人しくしてれば痛いのは最低限ですむぞ」
B 「やめっ……どこ触って……いやだ、やめろ、ああああッッ!!」
(間)
B 「これは下克上じゃなくて、ただの強姦」
A 「えーーーー!! 難しいなーーーーーーっ」
B 「お前は……もう少しボーイズラブを勉強してみろ」
A 「んなこと言ったってなぁ……俺男だしなぁ」
B 「腐った男子と呼ばれる男もいるんだ。
ましてや仕事として引き受けてる以上、努力はしてもらうぞ」
A 「へーい」
B 「……大体、なんでラストは俺達そのまんまなんだよ」
A 「え。いや……だって、うん。
普段は立場が下でも逆転するのが下克上なんだったら、って思って……」
B 「別に、俺達に上も下もないだろ」
A 「そうかぁ?」
B 「なんだよ。……本当にあんなこと思ってんのか?」
A 「……少しはな」
B 「はぁ……。アホ」
A 「……知ってる」
B 「お前が何も言ってこないのって、それが理由?」
A 「えっ?」
B 「……だから、お前が何も言ってこないのは、俺に対する劣等感が理由なのか?」
A 「何も、って……何のこと、だよ」
B 「あのなぁ、俺がここまで言ってんだぞ。
……とっくに気付いてたっつーの」
A 「うっっ……」
B 「……言えって」
A 「それは……」
B 「こんな設定で作る割りに、登場人物が俺そのままじゃねーか。
遠まわしな告白されてんのかと思ったけど、違うのか?
……それとも無意識か?」
A 「いや、その……」
B 「……それとも俺の勘違い?」
A 「か、勘違いじゃ、ない、けど……」
B 「……だったら言えって」
A 「……待って。心の準備が、」
B 「おま……心の準備って今更だろ……」
A 「うるせぇ……」
B 「……仕事帰りにまた寄るよ。
それでいいか?」
A 「わ、わかった」
B 「企画、考えとけよ」
A 「……うん」
B 「顔、赤いぞ」
A 「……気のせいだ」
B 「……気のせいか」
A 「ああ」
B 「そうか……じゃ、……俺は、会社戻るから」
A 「おう。……ありがとな」
B 「別に」
A 「なんでそう強気でいられるんだよお前……」
B 「お前相手だからじゃねぇかな」
A 「くそっ」
B 「そういうとこ、可愛いぜ」
A 「なっ……」
B 「じゃ、またあとでな」
A 「おう。……また、あとで」