作:早川ふう / 所要時間 10分 / 比率 2:0 20170101 利用規約はこちら

白く、甘く、願ったものIF 〜抱擁〜

【登場人物】

ナオ
  店で一番人気の男娼。親に売られてきた過去をもつ。儚げな雰囲気の美青年。

嗣郎(しろう)
  恋人を亡くし、絶望していた会社社長。真面目で温厚。

秋仁(あきひと)
  風俗ビルを経営するオーナー。裏では非合法の高級男娼館を経営している。


嗣郎   「やあ。この店でもクリスマスを祝うんだね」

秋仁   「ええ、世間から隔離された空間であっても、これだけは別ということで」

嗣郎   「まぁそうだね。イベントがあってもいいと思うよ。
     私も今日、プレゼントを持参したんだ」

秋仁   「それはそれは。ナオも幸せ者ですね」

嗣郎   「ナオは部屋に?」

秋仁   「ええ、部屋に……おりますが……
     ご予約いただいていたのに申し訳ございません。
     本日ナオは体調が悪く、お相手は難しいかと」

嗣郎   「……珍しいね。
     インフルエンザ……? ノロやロタではないだろうね」

秋仁   「ええ、幸い感染るようなものではございません」

嗣郎   「ならよかった」

秋仁   「ですので、本日、別の者がお相手では……」

嗣郎   「心遣いは有り難いが、ナオ以外と会うつもりはないよ」

秋仁   「それでは別の日にご予約を……」

嗣郎   「感染る病気でないのなら、見舞いくらいいいだろう」

秋仁   「……しかし」

嗣郎   「時間分の金は払う。案内を」

秋仁   「かしこまりました……」



秋仁   「ナオ、お客様だ」

ナオ   「今日は誰にも会いたくない!!!」

秋仁   「お見舞いにきてくださったんだぞ」

ナオ   「帰ってもらって」

秋仁   「わがままを言うな!!」

嗣郎   「ナオ。僕が無理を言って見舞いにきたんだ。
     ……怒鳴る元気があるならよかったよ」

ナオ   「……」

秋仁   「大変申し訳ございません。実は毎年の恒例行事のようなものでして……」

嗣郎   「なるほど」

秋仁   「あとできつく叱っておきます。
     なにかありましたらお呼びください。
     ……それでは私はこれで」

嗣郎   「……さて、邪魔者もいなくなったところで……」

ナオ   「…………」

嗣郎   「……単刀直入にきくが。
     ……僕に会いたくない、つまりは、嫌いになった、ということは……」

ナオ   「ちが……そういうことじゃ、ない、です……」

嗣郎   「よかった。
     では、なぜ会いたくないと?」

ナオ   「……」

嗣郎   「何かあったのかな。
     僕でよければ……話を聞くが」

ナオ   「……何も、ない」

嗣郎   「とてもそうは見えない。
     ……しかし話したくないのなら、無理に聞くこともやめておこう。
     それにしても……一人でこんなに酒を飲んだのかい?
     僕も一緒に飲んでも構わないかな?
     それと、早速君へのプレゼントが役に立ちそうだ」

ナオ   「え……」

嗣郎   「これは出張のお土産、チーズなんだ。今食べてしまおう。
     えーと、プレゼントはこっち。君の生まれ年のワイン。
     あと、グラスも特注で作ってもらったんだよ。
     君が生まれてくれたこと、君に出会えたこと、
     君が、僕と共にいてくれるこの時間に感謝と愛をこめて。
     少し早いクリスマスプレゼントだよ」

ナオ   「……っ」(泣く)

嗣郎   「……どうして、」

ナオ   「……俺……、俺が、生まれて……よかったの……?」

嗣郎   「なぜそんな悲しいことを……」

ナオ   「……だって、俺は……」

嗣郎   「すまない。今のは失言だったね。
     君の事情は知っていたのに……申し訳ない」

ナオ   「嗣郎さんが謝ることじゃないです……」

嗣郎   「……君が生まれてきてくれて、よかった」

ナオ   「……わがまま、言ってもいい?」

嗣郎   「なんだね?」

ナオ   「おめでとう、って、……言ってほしい」

嗣郎   「……おめでとう?
     ……まさかナオ……」

ナオ   「あ……。っ……抱いてよ!」

嗣郎   「ナオ!?」

ナオ   「ねえ、抱いてよ!!」(押し倒す)

嗣郎   「っっ!!」

ナオ   「忘れたいんだっ。もう……忘れたいんだよ!!
     あんなの、もう忘れたいんだ!!」

嗣郎   「ナオっ、落ち着いて」

ナオ   「っく……っ……。
     日曜日だった。みんなで、出かけたんだ。
     パパもママも、笑ってた。遊園地行って、一緒にごはん食べて、ケーキも食べて!!
     はしゃぎつかれて帰りの車の中で寝ちゃって……
     起きたら、……ここに……。
     ……もう……いやだ……。
     こんな日なんて、だいっきらいだッッ!! 
     今日の記憶、全部消したいんだ!!
     抱いてよ!!! 壊してよ!! いっそ殺してよ!!!!!」

嗣郎   「……ナオにとって、今日はとても、つらい日なんだね……。
     僕がそんな君に何をしてあげられるだろうか。
     ……このまま抱けば、少しは気がまぎれるのかい?」

ナオ   「うるさい!!!
     そんなこと言う前にさっさと抱けばいい!!! んっ……」(口づけられる)

嗣郎   「…っ……」(はげしく口づける)

ナオ   「んぅ……んっ……ん……」

嗣郎   「……全部忘れて、……僕のことだけを覚えていればいい。
     君が生まれた意味は、僕だと。
     君が生きる意味は、僕だと。
     この世の誰よりも、僕がナオを愛するから。
     君の全部を上書きして、君の中が僕だけになればいい!」(荒々しく口づけたり愛撫しながら)

ナオ   「っ……あ、あ、ああああああああっ……」(号泣)(拒否)

嗣郎   「……。
     ……泣いていいんだよ」

ナオ   「ごめんなさ…… うっうっ……」

嗣郎   「つらいときに、無理をしてはいけないよナオ。
     今日僕は、客としてここにきたわけじゃない。
     愛しい人の見舞いにきただけなんだから、気にしなくていいんだ」

ナオ   「うああああああああっ」

嗣郎   「……こうしているから、安心して泣きなさい。
     寄り添って、……ずっと撫でていてあげるから」

ナオ   「ううっ……ううううっっ」

嗣郎   「よしよし」

ナオ   「……ぎゅうってして。……もっと、強く……」

嗣郎   「ああ。」

ナオ   「……嗣郎さん……」

嗣郎   「…………いつでも、甘えていいんだよ」

ナオ   「……俺は、俺は……。
     アリガト…………ごめんなさい…………」