作:早川ふう / 所要時間 20分 / 比率 1:1 20230219 利用規約はこちら

パーフェクト・ナンセンス

【登場人物】

佐倉(さくら)
 大学生。男。チャラついて見えるが、実は大学デビューしただけの恋愛初心者。村上とは友達。

村上(むらかみ)
 大学生。女。無理して周囲の面倒をみてしまうようなタイプ。佐倉とは友達。

岩元(いわもと)
 大学生。女。佐倉と村上の共通の友達。勘がいい(笑)。台詞はありませんが会話に出てきます。

向井(むかい)
 大学生。女。佐倉の想い人の翔子ちゃん。台詞はありませんが会話に出てきます。


(恋愛映画を観た二人。その後、コーヒーショップにて)

佐倉 「はー、やっと落ち着いたー」

村上 「そうだねー、落ち着いてくれてよかったよ」

佐倉 「うるせえ」

村上 「ふふ」

佐倉 「今日のこと、絶対皆にばらすなよ?」

村上 「何を? 映画観てぼろ泣きしてたって?」

佐倉 「あれはっ、しょうがないんだ!! あんな話誰だって泣くからな!!」

村上 「まぁ、いい映画だったもんねぇ」

佐倉 「……村上は泣かなかったよな。何でだ」

村上 「いやー、うわー涙腺やばいわーって思ったんだけどさ、
   ふと隣見たら、引くぐらい泣いてる人がいて、涙引っ込んだよね」

佐倉 「くそ、マジお前いい性格してんな」

村上 「ありがと〜」

佐倉 「褒めてねぇし」

村上 「ははは。
   ……でもさぁびっくりしたわ」

佐倉 「ん、何が?」

村上 「佐倉に映画誘われるなんて思わなかったからさ。しかも恋愛ものだし」

佐倉 「……主演が俺の、推しなんだよ。
   観たかったんだけど、さすがに男一人で恋愛映画ってのは勇気が出なくてさ」

村上 「えー、あの子推してるんだ。なんか意外〜。普段全然そんな話、しないじゃん」

佐倉 「推しは一人で静かに愛でる主義なんでな」

村上 「あーなるほどね。わかるわ、私もそう」

佐倉 「え? お前も誰か推してるヤツいるの?」

村上 「うん、いるよ」

佐倉 「誰?」

村上 「えーどうしようかなー」

佐倉 「この流れで秘密にすんなよ」

村上 「秘密ってわけじゃないけどさー」

佐倉 「もったいつけるなよ」

村上 「……主題歌」

佐倉 「ん?」

村上 「さっきの映画の主題歌歌ってた人デス」

佐倉 「あぁマジか! あ、だから今日付き合ってくれたの?」

村上 「そういうこと。ちょうど私も観たいと思ってたんだよね」

佐倉 「そっか。無理に付き合わせたわけじゃないならよかった」

村上 「ラジオでは聴いてるし、来週発売のCDも予約してあるんだけど、
   やっぱ映画の最後に流れるのって特別だし。
   だから私、その映画なら行くって即答したでしょ」

佐倉 「ああ確かに。てか、結構ガチめに推してんだな」

村上 「もうっ、だから言いたくなかったのー」

佐倉 「別に引いてるわけでもからかうつもりもないからな。
   確かにあれいい曲だったよ」

村上 「でしょう!」

佐倉 「途端に前のめり」

村上 「そりゃそうなるでしょ。
   あー……主演の子の演技よかったよねー、
   私は中盤の火事のシーンの表情が特に印象深くて」

佐倉 「ああ、あれすげえいい表情だったよな! 演技マジでうまかった!!
   ……うん、確かに前のめりになるな」

村上 「推しを褒められると嬉しくなっちゃうよね」

佐倉 「なっちゃうな。
   一人で愛でてると味わえない感覚、いいねぇこういうのも」

村上 「ちなみにお世辞で褒めたわけじゃないからね」

佐倉 「そこまでお前の人間性疑わねーよ」

村上 「あら、信頼されてた」

佐倉 「当たり前だ。じゃなきゃ誘ってない」

村上 「そっか、嬉しい、ありがと」

佐倉 「おう」

村上 「……んーフラペチーノうまっ」

佐倉 「新作だっけ?」

村上 「うん。美味しいよ、一口飲む?」

佐倉 「……おま、そういうのやめろよ」

村上 「え?」

佐倉 「仮にも俺、男。間接キスとか気にしろよ、女なんだからお前」

村上 「ああ、そっか。うん、そうだね、ごめん」

佐倉 「わかればいい」

村上 「佐倉ってさ、普段は結構チャラいけど、実際そうでもないよね。
   こういうとこ、古風とまでは思わないけど、
   気遣ってくれるし、何ていうか、よくいえば誠実っていうか?」

佐倉 「悪く言えば面白みないとか言うなよな」

村上 「言わないって。どんだけネガティブなの」

佐倉 「繊細なお年頃なんだよ」

村上 「へー繊細……そう言えば映画誘ってくれた時、相談あるとも言ってたよね」

佐倉 「……言ったな」

村上 「……で、相談って何よ」

佐倉 「いや、それはさあ、うん……」

村上 「…………なんで黙るかなあ」

佐倉 「ちがっ、言いづらいんだよ。心の準備くらいさせろって」

村上 「あー、なるほどね」

佐倉 「……いざ相談しようとすると、こう、緊張するっていうか。
   こんなこと相談なんかしたことないんだよ」

村上 「初体験おめでと」

佐倉 「からかうな、空気読め」

村上 「……で、どこのどなたを好きになったの?」

佐倉 「ぐっ……げほっげほっげほっ!!
   ちょ、お前ほんと空気読めよ!!」

村上 「いや、空気読んだから言ってあげたんじゃない」

佐倉 「くそ……村上ってこういうヤツだった……」

村上 「当たったみたいだねー。さて、誰かなー知ってる子かなー」

佐倉 「……顔の広い村上だったら、もしかしたら知り合いかもしれないとは思ってる」

村上 「あ、じゃあ大学の子なんだね?」

佐倉 「うん」

村上 「ほうほう、それでそれでぇ?」

佐倉 「面白がってんじゃねーよ、こっちは真剣なんだ」

村上 「私だって真剣に聞いてるってば」

佐倉 「どうだか」

村上 「全然普通に話してくれていいんだって。さあ、どうぞ、カモン!」

佐倉 「言えるか!」

村上 「えー、わがままだなあ」

佐倉 「……マジでまいってるんだから、聞いてくれよ」

村上 「……うん」

佐倉 「まぁ、好きな人がいるんだけどさ」

村上 「うん」

佐倉 「岩元、いるじゃん」

村上 「岩元って岩ちゃん? うん、岩ちゃんがどうしたの」

佐倉 「たぶん、岩元と仲いい子なんだ。よく食堂で一緒にいる」

村上 「あら、じゃあ私も知ってるなーたぶん」

佐倉 「だろ」

村上 「でもじゃあ、私より岩ちゃんに相談した方がよかったんじゃないの?」

佐倉 「岩元だと、近すぎるかなと思って」

村上 「そこで遠慮するあたり佐倉らしいけどさあ」

佐倉 「それに、村上の方が話しやすいしさ」

村上 「あら嬉しい。
   で、岩ちゃんと仲いい子っていっても、何人かいるよね。
   名前わかる?」

佐倉 「いや、わからん。何も、知らない」

村上 「は?」

佐倉 「岩元に話しかけに行って、その時ちょっと会釈とかして、それが限界で」

村上 「……え、何してんの?」

佐倉 「しょうがないだろ恥ずかしいんだから!!」

村上 「恥ずかしいからって……え、見かけるたびに岩ちゃんに話しかけにいってるわけ?」

佐倉 「そーだよ」

村上 「……それワンチャン誤解されない?」

佐倉 「誤解?」

村上 「岩ちゃんのこと好きって思われてるんじゃないかってこと」

佐倉 「……何とかしてくれ」

村上 「そう言われてもね」

佐倉 「何とか、したい」

村上 「まぁ、岩ちゃんはわかってるかもだけどさ。
   その子と一緒にいる時に限って佐倉が来て、
   どうでもいいようなこと言ってくる、ってことでしょ。
   あからさますぎるもんね」

佐倉 「そう、かな」

村上 「ちゃんと言って協力してもらった方がいいと思うけど」

佐倉 「ううう……」

村上 「とにかくまぁ確定させよっか。
   どんな子? 身長とか、髪の長さとか」

佐倉 「……身長は、岩元と同じくらいだった。
   髪は短くて、眼鏡かけてる」

村上 「オッケ、わかった、翔子ちゃんだ」

佐倉 「しょ、しょうこちゃん?」

村上 「向井翔子ちゃん。岩ちゃんと高校も一緒だったはず」

佐倉 「さすが村上、頼りになる!」

村上 「岩ちゃんのインスタから飛べるよ。
   ……ほら、このアカウント、翔子ちゃんのだから」

佐倉 「え、フォロー、していいのか、いや、いきなりは引かれるんじゃ?」

村上 「別に大丈夫だって、気にしすぎ」

佐倉 「そっか、じゃあ、うん、フォローするわ」

村上 「あ、返信きた」

佐倉 「返信? 何の?」

村上 「岩ちゃんに、ちょっと訊きたいことあるってDM送っといたんだ。
   佐倉の名前出さないから、翔子ちゃんのこと訊いてみていい?」

佐倉 「マジで神すぎるだろ。お願いします!」

村上 「任せなさい」

佐倉 「…………マジで、村上に相談してよかったわ」

村上 「え?」

佐倉 「いつも話しかけられないし、どうしたらいいかマジで悩んでたんだ。
   考えれば考えるほどドツボにはまるっていうか。
   わけわかんなくなってくるしさ」

村上 「そっか、まぁ、そうなるよね」

佐倉 「……俺、そんなに漏れてたかな」

村上 「ん? 何が?」

佐倉 「いや、俺が好きな人いるって、村上すぐわかったじゃん」

村上 「わかったっていうかねぇ……何となく、気付いてたんだよね。
   佐倉最近さ、ちょっとだけ雰囲気変わったっていうか。
   寝癖もなくなって、身綺麗になったっていうとちょっとあれかもだけど。
   だから、もしかして恋でもしてるのかなーとか、思ってたんだ」

佐倉 「お前すごいな。え、何、人間観察とかそういうやつ?」

村上 「そんな大したことじゃないけどね。
   私、皆といる時そんなに自分から話すタイプじゃないし、
   一歩引いて皆を見てることが多いからじゃない?」

佐倉 「あーね」

村上 「えー! マジか……」

佐倉 「どうした?」

村上 「岩ちゃんからの情報きました。翔子ちゃん、好きな人いるっぽい」

佐倉 「……! 終わった」

村上 「待って」

佐倉 「終わったろ。好きな人いるんじゃ絶対無理じゃん」

村上 「希望を捨てるのは早いって。
   大体好きな人だって、もしかしたら佐倉のことかもしれないでしょ」

佐倉 「話したこともないのにそんなわけあるか!」

村上 「話したことなくても佐倉は翔子ちゃんのこと好きなんでしょうが!」

佐倉 「……確かに」

村上 「それに、たとえ今別の人を好きだとしても、振り向いてくれる可能性はゼロじゃない」

佐倉 「……そうかな」

村上 「ゼロじゃないよ。自分が気持ちを捨てない限りは、ゼロじゃない」

佐倉 「……村上って、ほんといいやつだよな」

村上 「……ドーモ」

佐倉 「……お前、彼氏いるんだっけ?」

村上 「え? いないけど」

佐倉 「好きなやつは?」

村上 「……うーん、いるような、いないような」

佐倉 「は? どっちだよ」

村上 「まぁ、いますけど」

佐倉 「それなのに、俺と出かけてくれて、恋愛相談にまでのってくれるのか。
   え、マジで神だったりするわけ? 前世釈迦?」

村上 「アホか。そんなわけないでしょ。
   てか昔そんなのあったよね。
   釈迦でーす、とかそういうネタやる人いなかった?」

佐倉 「あーいたような気がするけど覚えてないな」

村上 「……誰だっけー。思い出せないの気持ち悪いな、検索しよ」

佐倉 「うまくはぐらかしたな」

村上 「そういうわけじゃないよ」

佐倉 「……優しくて、人の為に動けるってさ、すごいと思う」

村上 「え、なに急に褒めて。私全然そんなことないからね」

佐倉 「俺は、自分の為にだって動けなかったんだ。お前はすごいよ」

村上 「佐倉は恋愛が絡んでたからでしょ。
   恋してるから動けないなんて、普通だもん。
   私はね、佐倉が友達だからできてるんだよ」

佐倉 「え、そういうもんか?」

村上 「そういうものです」

佐倉 「でも、誰にでもできることじゃないと思うよ」

村上 「ふふ、どーも。でもさ……」

佐倉 「ん?」

村上 「いや、なんていうか。
   んーー、言い方難しいな」

佐倉 「どうした」

村上 「友達ってさ、実は結構寂しいものだと思ってるんだよね」

佐倉 「寂しい、って?」

村上 「……佐倉の恋がうまくいけばいいと思ってるよ。思ってる。
   それはほんとなんだけど」

佐倉 「うん」

村上 「要は優先順位の問題よ」

佐倉 「優先順位?」

村上 「だってさあ、友達と恋人だったら恋人優先になっちゃうでしょう?
   それは普通っていうか、しかたないことだと思うわけ。
   で、異性の友達っていうのはさ、順位的に、同性の友達の更に下なんだよね」

佐倉 「えー、そうかぁ?」

村上 「じゃあ佐倉は、彼女ができても、女友達と二人で出かけられる?」

佐倉 「あ、二人では……無理か。さすがに誤解されたくないし、喧嘩になっても嫌だし」

村上 「そう。そういうことだよ」

佐倉 「うーん、……でもほら、皆でだったら行けるじゃん」

村上 「まぁ、そうだけどね。
   ……あ。岩ちゃん正解〜」

佐倉 「ん、どうした?」

村上 「それ佐倉のことでしょ、だって。バレてますよー」

佐倉 「えっ、マジかー!」

村上 「もういいよね? 言っちゃっても」

佐倉 「……しょうがない。いいよ。
   はー、バレてんのか―……そんなわかりやすいかな俺」

村上 「うん。わかりやすいって、岩ちゃんも言ってる」

佐倉 「……え、これ、あの、彼女にもバレてるとかってオチはないか!?」

村上 「訊いてみるー」

佐倉 「もしバレてたらヤバイだろ。
   今インスタフォローしたのとかさ、
   気持ち悪いとかストーカーとか思われるんじゃ……」

村上 「それは考えすぎ……だと思うけど。
   バレてたらありえるなー……」

佐倉 「だよな!? うわぁ……怖え……」

村上 「あ、バレてないって。
   というか、印象いいっぽいって!」

佐倉 「嘘!」

村上 「ほんと、ほら、見て」

佐倉 「マジだ。うわーー神様ありがとう!!」

村上 「よかったね」

佐倉 「よかった!!」

村上 「……こうなると翔子ちゃんの好きな人が気になるね。
   可能性あるでしょ、印象いいって話をしてるんだから」

佐倉 「うっ、……いや、わからん、わからんぞ。
   そうだったら嬉しいけども!!
   そうじゃない可能性の方が高いんだから!!
   ぬか喜びさせるな村上!!」

村上 「……てか、今、岩ちゃん翔子ちゃんと一緒にいるんだって」

佐倉 「えぇ!? 大丈夫なのか!? これでバレたり……」

村上 「岩ちゃんと私がやりとりしてるってことはさ。
   翔子ちゃんも携帯見てたりするんじゃない?
   佐倉インスタは!?」

佐倉 「え、え……あーっ!! フォローきてる!!」

村上 「おめでとう」

佐倉 「え、どうすればいい!?」

村上 「どうすればって、お礼のDMしろ!!」

佐倉 「いきなりそんな!!」

村上 「相互じゃなくても普通にDMくらいするだろうが!!
   いいからするんだよ!!」

佐倉 「俺はそんなにDM使わないからわからないんだってば!!」

村上 「知るか! 慣れろ!!」

佐倉 「もうちょっと恋愛初心者に優しくしてくれ!!」

村上 「……あれ。そうなんだっけ?」

佐倉 「あ……くそ、口が滑った」

村上 「佐倉って、高校時代さぞかし遊んでいたタイプかと思ってたんだけど」

佐倉 「んなわけあるか」

村上 「そっかー。そんなわけなかったんだねー、大学デビュー大成功組?」

佐倉 「それはまぁそうなんだけど、何か嫌だ! くそ!」

村上 「そっかそっかー、そういうことねー。
   岩ちゃんに話しかけて翔子ちゃんには会釈だけってのも納得だわ。
   ヘタレだなあとは思ったけど、奥手ならまぁしょうがないよね〜〜」

佐倉 「うるせえ! 黙れ!」

村上 「まぁ、ともかくさ、せっかくここまでお膳立てしたんだから、頑張りなよ」

佐倉 「ぐっ……。そ、そうだな」

村上 「何かさー」

佐倉 「ん?」

村上 「佐倉見てたら、恋もいいもんだなって思ったわ」

佐倉 「何だよそれ」

村上 「小さなことに一喜一憂してさ、相手のこと好きでしょうがなくて、
   気持ちがいつもふわふわしてる感覚って、何かいいじゃん」

佐倉 「何だよ、お前だって好きなやついるんだろうが」

村上 「いるけど……私は全然違う感覚なんだもん」

佐倉 「違うって、じゃあどんな?」

村上 「……んー、いい加減いつ諦められるのかなーってかんじ」

佐倉 「え。俺、ちょっと、今すぐお前の話聞いた方がいい気がするんだけど」

村上 「いやいや、別にいいって」

佐倉 「そりゃ恋愛経験なさすぎる俺には何も気の利いたことは言えないけど、
   でも聞くだけならできるし、溜め込んでるよりはいいだろうが」

村上 「気持ちだけありがたく受け取っておくよ」

佐倉 「俺には言えないような相手なのか?」

村上 「そういうわけじゃないけど」

佐倉 「じゃあ何だ。まさかとは思うが、既婚者か?」

村上 「まさかすぎるわ、不倫なんてありえない」

佐倉 「じゃあホストに貢いでるとか?」

村上 「ないない」

佐倉 「じゃあどうして諦めるんだよ。あ、相手彼女持ち?」

村上 「まぁそんなとこよ」

佐倉 「でも、お前が言ったんだろ?
   たとえ今別の人を好きだとしても、振り向いてくれる可能性はゼロじゃないって。
   自分が気持ちを捨てない限りは、ゼロじゃないって!」

村上 「言ったね。ずっと好きは好きなんだけど……
   ごめん、さっき佐倉に偉そうなこと言ったけど、
   私の場合は、いい加減つらくってさ。
   楽しい恋愛したいなって思っちゃうんだよ。
   私、相手と仲良くなりたいとか、付き合いたいとか、
   もうそんなレベルの話じゃなくなっちゃって、
   諦めたい、が一番に来てるんだ」

佐倉 「……そっか」

村上 「好きな人の幸せが一番大事だし。
   とはいえ、簡単に気持ち捨てられないから厄介なんだよね。
   引っ掻き回したくないから、気持ちを伝えることもできないし、
   区切りがつかないから、なかなか難しいっていうか」

佐倉 「……いつでも、気晴らしとか付き合うよ」

村上 「え?」

佐倉 「もし、俺に彼女ができてもさ、恩がある友達だからってちゃんと説明して、
   いつでも俺、お前の為に時間を作れるようにするから」

村上 「い、いきなりイケメンなこと言わないでよ。どきっとしたわ」

佐倉 「ひひっ、悪いなイケメンで」

村上 「アホ」

佐倉 「でも、本気だからな。
   こんだけ世話になったんだし、村上がつらい時でも、新しい恋した時でも、
   お前とは、お互いどんな恋愛してても、友達でいたいって思うし」

村上 「ありがと。……私もそう思うよ」

佐倉 「……あ」

村上 「ん、どうかした?」

佐倉 「翔子ちゃんからDM返事きた!!
   やばい、めっちゃ絵文字使ってる、すっげー可愛い!!」

村上 「よかったね。さあ頑張って返事を書け!!」

佐倉 「はい!!」



村上 私の携帯には、岩ちゃんから『本当にこれでいいの?』とメッセージが届いていた。
   岩ちゃん勘よすぎ。でも……いいに決まってる。



佐倉 「あーーーやばいめっちゃ手汗!」

村上 「落ち着け。翔子ちゃんは逃げないから、ゆっくりやんな」

佐倉 「せっかく一緒にいるのに、悪いな」

村上 「そんなこと全然いいんだって」

佐倉 「ありがとな、頑張るわ」

村上 「……頑張れ。佐倉は……きっとうまくいくよ」