作:早川ふう / 所要時間 30分 / 比率 1:1 20210514 利用規約はこちら
幼馴染ってやつ
【登場人物】
永野梓(ながの あずさ)
田舎を出て都会で働いており、一人暮らし暮らしを満喫していて
今回は久しぶりの帰省となる。
健太とは幼馴染で、こちらも久しぶりの再会となる。
石塚健太(いしづか けんた)
田舎で沙苗という彼女と共に、親の仕事を手伝っている。
沙苗とは実家の離れで同棲しているが、まだ籍は入れていない。
梓とは幼馴染で、親同士も仲が良く、互いの家で寛げるほどの間柄だった。
梓 母が足を悪くして手術するというので、久しぶりに地元に帰ってきた。
仕事を三時で早退して、急行と鈍行を乗り継いで二時間。
すでに空は真っ黒で雨まで降っていた。
実家は駅から少し歩くのだが、まぁどうということはない。
キャリーケースから折りたたみ傘を取り出そうとした時だった。
健太 「あず!」
梓 「え……健太?」
健太 「よう」
梓 「よう。……どうしたの?」
健太 「迎えにきたんだよ。
ったく、みずくせえ。帰ってくるなら連絡よこせっての」
梓 「でも急だったし、そっちも予定あると思ったからさ」
健太 「変な気遣いいらんて。雪降ったら困るだろ」
梓 「いや、まぁ、うん……」
健太 「うわ。言い返してこねえ。お前本当にあず?
頭でもぶつけたか?」
梓 「失礼ねえ」
健太 「ひひ。あ、傘これ使えよ」
梓 「傘?」
健太 「あっちは降ってなかっただろ。
だから傘持ってないんじゃないかって」
梓 「ちゃんと折りたたみくらい持ってきてるよ」
健太 「風もあるし、こっちにしとけって」
梓 「わかった。ありがと」
健太 「あ、荷物あるならタクシーの方がいいか?」
梓 「いいよ、歩く」
健太 「そっか」
梓 「あれ……これうちのお母さんの傘じゃない?」
健太 「ああ。あずは絶対ちっちゃい折りたたみ傘で帰ってくるから、
健太くん、大きい傘持っていってあげてくれないかな、ってさ」
梓 「見透かされた……」
健太 「さすがおばちゃんだよな」
梓 「かなわないね」
健太 「ははっ」
梓 「……駅前さあ、最初暗くてわかんなかったけど、結構変わったよね」
健太 「ああ、ロータリーが二年くらい前に出来たから、道もかなり綺麗になったし」
梓 「昼間だったらもっとびっくりしたかも」
健太 「東口の方が変わったから、明日にでも案内してやろうか」
梓 「案内するほどのものがあるわけ?」
健太 「じゃあ楽しみにしとけ。空いたら声かけろよ」
梓 「気が向いたらね」
健太 「おう。あ、荷物。よこせよ、持つ」
梓 「平気だよ。転がしてるし」
健太 「いいからいいから」
梓 「ありがと……。なんっか、変な感じ」
健太 「どうした?」
梓 「だって健太だよ?
あの健太がまさか荷物持ってくれるなんてさあ……」
健太 「は? お前俺を何だと思ってんだ」
梓 「素で無礼な乱暴者?」
健太 「おい。俺、そんなんかあ?」
梓 「中学くらいから急にいきがるようになったじゃん。
話しかけようものなら『あ?』『うるせぇ』ばっかりで、
何を目指してたんだかわかんないけどさあ」
健太 「そうだったかなァ」
梓 「その健太が傘を届けてくれて、荷物まで持ってくれるなんて。
昔じゃ絶対に考えられないじゃない、むずがゆくもなりますよ」
健太 「まぁ、いつまでも子供じゃねぇだろ、お互いな」
梓 「まぁね」
健太 「……元気だったか?」
梓 「うん」
健太 「ちゃんと飯食ってるか?」
梓 「食べてるけど、何で?」
健太 「ちょっと痩せたみたいだし」
梓 「えっほんと? 嬉しい!」
健太 「無理なダイエットして体壊すなよ?」
梓 「ちょっと、お母さんみたいなこと言わないでよ。
ほんと健太キャラ変わりすぎなんだから」
健太 「俺はもともと鈍感だしなぁ、
色々心配するくらいで丁度いいだろ」
梓 「ふぅん。まぁそうかもねぇ」
健太 「あず、いつまでこっちにいるんだ?」
梓 「火曜日。午後に帰る予定だけど」
健太 「仕事は?」
梓 「有休。まぁ無理言ってぎりぎりとったって感じ。
本当はもう少し長くこっちにいたかったんだけど、
この間旅行で有休とったばっかりだったから」
健太 「それでも、おばちゃん助かるだろ」
梓 「でもさぁ、しばらく帰ってなかったからなあ。
食べきれないほど夕食作ってそうで怖いよ」
健太 「あ、正解」
梓 「マジか。
……ぶり大根、唐揚げ、ポテトサラダ、
小松菜と油揚げのお味噌汁ってところかな」
健太 「あとだし巻きも作ってたよ、たらこのやつ」
梓 「うわぁ絶対太るじゃんこれ……。
てか、健太なんでそこまで知ってるのよ」
健太 「まぁちょっと話のついでに、つまみぐいさせてもらったんだ」
梓 「本当についで?」
健太 「ひひ。おふくろからおばちゃんのこと聞いたから顔出したら、
張り切って料理してんだもん。
足に負担かかるからほどほどにって言ったんだけどさ」
梓 「お母さん、ハイハイって言って、右から左でしょ」
健太 「おう、全然聞いてくれなかった」
梓 「明日入院するって人が仕方ないんだから……」
健太 「……あ」
梓 「ん?」
健太 「悪い。電話」
梓 「ああ、どうぞ」
健太 「……もしもし沙苗? どうした?」
梓 かれこれ五年は付き合ってるはずの健太の彼女の名前が聞こえて
そっと私は歩調を落とした。
さすがに、隣を歩くのは、気が引ける。
健太 「うん。……うん。……あーじゃあそれは隣にまわしていい」
梓 隣、っていうと健太の実家だな。仕事の話かもしれない。
二人は健太の実家の離れで同棲してて、
しかも実家の仕事を二人で手伝っている状態。
それもう嫁だと思うんだけど、まだ結婚はしてないんだよね。
健太 「あとは俺がやるよ。……うん。あと二十分くらいで帰るから」
梓 「あれ……」
(梓のつぶやきに気付いて、振り返る健太)
健太 「ん? ……あず? どうした?」
梓 「なんでもないよ。ほら、電話してんでしょ、私のことはいいから」
健太 「おう。……ごめん、何でもない。
……ああ、入院するのは梓のおふくろさんだよ。
……そう、幼馴染の。……うん、世話になったからさ……うん」
梓 健太、ほんと変わったんだね。
あ、私も携帯鳴ってる……。
健太 沙苗と話していると、梓も俺のすぐ後ろで電話を始めたようだった。
梓 「もしもし、……うん、地元着いたよ。わざわざお見舞いまでありがとう。
気を遣わせてごめんね」
健太 お見舞いを持たせた、……ってことは、手術の話をしてあるから、だよな?
梓 「うん。そう。……明日入院して、月曜に手術。うん。
……ごめんね、予定キャンセルしちゃって」
健太 これはあれか、彼氏か。あずの彼氏、……どんなやつなんだか。
梓 「難しい手術じゃないから大丈夫、うん。……ありがとう。
そう。足。膝だからさ。……うん」
健太 あずだって変わったよ。
お前、好きなやつとは、そんなふうに話すんだなあ。
梓 「……ありがとう。嬉しい。
落ち着いたら、……うん。……うん。そうだね」
健太 「ああ、ごめん。……ゼリーな。買って帰る。
うん。……オッケ。じゃ」(通話終了)
梓 「……うん。またね」(通話終了)
健太 「……彼氏?」
梓 「うん。そっちも電話、彼女でしょ?」
健太 「おう。ゼリー買ってきてくれってさ」
梓 「具合でも悪いの?」
健太 「いや、あいつが最近ハマってるだけ」
梓 「そうなんだ。あ、そうだ。ハンカチ使う?」
健太 「ん? 何で?」
梓 「右肩濡れてる」
健太 「あーほんとだ、サンキューな」
梓 「傘さすの下手だねぇ」
健太 「うるせぇ。あ。これ、洗って返した方がいいか?」
梓 「彼女の手を煩わせたくないので結構ですー」
健太 「俺だって洗濯くらいはするぞ」
梓 「洗濯って、ボタン押すだけで終わりじゃないって知ってる?」
健太 「くそ、干すの苦手なの何でバレてんだ?」
梓 「ばーか。
健太って、彼女と家事のそういうこまかいところで喧嘩したりしないの?」
健太 「昔はあったよ。今はお互い慣れたけど」
梓 「ふぅん。ちゃんとうまくやれてるんだ」
健太 「まぁな。あいつほどうまくはできねぇけど、
共働きだしな、当番制でやってるから、家事の腕もあがったぞ」
梓 「ふぅん」
健太 「……あのさ」
梓 「ん?」
健太 「おばちゃんの手術で帰ってきたお前にこんなこと言うのあれなんだけど」
梓 「何?」
健太 「気を悪くしないで聞いてほしいんだけどさ」
梓 「うん」
健太 「……俺、そろそろ結婚しようと思ってんだよ」
梓 「へぇ。いいんじゃない。やっと決断したんだ」
健太 「決断っつーか、タイミングっつーか……」
梓 「……あれっ、もしかしておめでた?」
健太 「はっ!? いや、ちが、ちがう、ちがいます」
梓 「何その反応。あやしいんだけど」
健太 「……いや、ちがう、はず、だけど」
梓 「え、まだ内緒とか?」
健太 「いや、……もしかしたらできたかも、って言われて、
いや、できてなかったんだけど」
梓 「あーそうなんだ」
健太 「俺、最初にそう言われた時、すげぇ嬉しかったからさ。
仕事も沙苗との生活も今すげぇうまくいってるし、
ガキできたかもって聞いても、全然慌てなかったっつーか、
当たり前のように思えたから……」
梓 「もうちゃんと、家族なんだね」
健太 「そう、それを、すげー実感したから。
……順番ぐちゃぐちゃだけど、感謝もこめて、プロポーズしようかと」
梓 「いいねぇ、いいと思うよぉ」
健太 「そう思う?」
梓 「もちろん!」
健太 「でも……ずっと、ほら、こういう状況にしてきたし、
沙苗的にはどうなのかなって、不安だったりもするんだよな」
梓 「何が不安なの?」
健太 「本当は色んなこと我慢してて、騙し騙し生活してたりしてないかなあとか。
うちの親とうまくいってねぇなんて話は聞いたことないし、
仕事うまくやれてるから、大丈夫だとは思うけど、
でも、俺の目線じゃわからねぇこと、たくさんあると思うしさ」
梓 「彼氏の実家の近くで同棲して、彼氏の実家の仕事を手伝えてる、
それは、ちゃんと幸せじゃなきゃ続かない環境だと思うけど。
我慢して生活するくらいならさっさと出ていってると思うよ、結婚してないんだし」
健太 「そっか、そうかもしれないな……」
梓 「他に不安はある?」
健太 「あと、やっぱ妊娠ってデリケートな問題だろ?
俺何か無神経なこと言って女の地雷踏み抜いてないかなとか……」
梓 「え、そんな不安になるほどのリアクションしたわけ?」
健太 「いや、よく覚えてない」
梓 「うん、それはちょっとどうかと思うけど。
でもまぁ、喜んだんでしょう? だったら大丈夫じゃない?」
健太 「だといいんだけどさぁ」
梓 「ははーん、柄にもなくマリッジブルーですか?」
健太 「マリッジブルー……ああ、そうなのかも」
梓 「ほんっと似合わないから、そんなのさっさと吹き飛ばしちゃいなさい」
健太 「何だよそれ。人が真剣に悩んでんのにっ」
梓 「…………話変わるんだけどさ。
中学の頃、午後から雨降るって予報だったのに
健太が傘持ってこなかったことがあったんだけど、覚えてる?」
健太 「……傘忘れたことなんてありすぎてわかんねぇよ」
梓 「二人で一緒に帰ったじゃん」
健太 「二人で、一緒に?」
(回想 中学生時代の二人)
梓 『あれ健太、傘は?』
健太 『持ってくるの忘れた』
梓 『バカだねー、予報見なかったの?』
健太 『うるせー』
梓 『一緒に帰ろ。入れてってあげる』
健太 『あずと相合傘なんてできるかよ』
梓 『風邪ひきたいなら別にいいけど』
健太 『くそっ』
梓 『素直じゃないねー』
健太 『……傘よこせ』
梓 『え?』
健太 『俺の方が背高いんだから、俺が持つ』
梓 『……私達1センチしか違わなかったよね』
健太 『……うるせぇ』
梓 『まぁいいけど……はい』(傘を渡す)
健太 『ん』(受け取る)
梓 『…………うわぁ、下手くそ』
健太 『はあ?!』
梓 『もっとこっちに傾けて傘差してよ、濡れるでしょうが!
テスト前に風邪ひいたらどうしてくれるの!?』
健太 『ごちゃごちゃ文句言うんじゃねぇよ!』
梓 『傘借りといて何でそんな態度でかいのよ!』
健太 『うるせぇ! 耳元でぎゃんぎゃん騒ぐな!』
(回想終了)
梓 「思い出した?」
健太 「あったなぁ、懐かしい」
梓 「まあ健太のことだから、今でも傘さすのが下手クソなだけってのも
なきにしもあらずではあるけれども」
健太 「傘さすの下手って何だよ」
梓 「でも。違うでしょう」
健太 「だから傘くらい……」
梓 「違うって」
健太 「……あ??」
梓 「私、健太の彼女と挨拶しかしたことないし、それももう何年も前の話だし
健太のおばさんやおじさんと、彼女の関係がどうってのもわからないから、
そんなんで彼女の気持ちを想像するのおこがましいよね。
でも、ひとつだけ、これは間違いなく、言えるなって思ったの」
健太 「何でそこに話が飛ぶんだ」
梓 「何よ、聞きたくないの?」
健太 「いや、オネガイシマス」
梓 「健太は、もう、ちゃんと彼女を守ってる」
健太 「え……どうして、そう思う?」
梓 「健太の肩が濡れてたからだよ」
健太 「ん? 雨降ってただけじゃないか」
梓 「そうだけど、そうじゃないでしょって」
健太 「そうじゃないって何が」
梓 「だから、何で右肩が濡れてたの?」
健太 「雨だからだよ」
梓 「雨だとどうして右肩が濡れるの?」
健太 「だから、雨が降ってくるからだろう!?」
梓 「傘さしてるのに?」
健太 「悪いかよ」
梓 「……だめだ、はっきり言わないと伝わらないのか。
いや、はっきり言っても理解できない説あるよこれ」
健太 「はあ!?」
梓 「今は、ちゃんと上手にできてるんだなあって思ったんだけど?」
健太 「何が?」
梓 「……この話の流れで伝わらないのかぁ……さすが健太」
健太 「はっきり言えよ!! もやもやするだろう!!」
梓 「ほんっと鈍感なんだから。
あ、でも待って。違うか。そうじゃない場合も……
いやどっちだって一緒か、おんなじだよねぇ」
健太 「一人で考えて一人で結論だしやがってこの野郎」
梓 「はいはい、もう健太はわからなくていいんじゃないかな」
健太 「何でだ!」
梓 「とにかくさあ、沙苗ちゃんに訊いてみなよ。
二人の問題なんだから、そもそも私に相談するようなことじゃないし。
大丈夫だって。健太がいいやつだってこと、沙苗ちゃんだってわかってるはずだから」
健太 「……くそ、何なんだよ一体……」
梓 「じゃあこの答え合わせは、健太たちの結婚式でしてあげる。
友人代表のスピーチの依頼頂戴よ。
健太が最後までわからなかったってところまで
ちゃんと盛り上げながら話すからさ。楽しみにしてて」
健太 「てめぇ覚えてろよ。お前の時には、ガキの頃の暴露話してやるからなっ」
梓 「じゃあ私の時にはスピーチ頼まない。てか、そもそも健太呼ばなきゃいいね、うん」
健太 「お前なあ!」
梓 「ははっ、嘘嘘」
健太 「あ、そうだ。明日、俺車出すから。朝連絡よこせよ」
梓 「え? 何で?」
健太 「おじさん明日朝だけ車使うっておばちゃんが言ってた」
梓 「でも、お母さんの車、私運転するし」
健太 「でも軽だろ。狭いじゃん。
俺の車ワゴンだから足も伸ばせるし、荷物もあるだろ」
梓 「……結婚決めた男は、ほんと気遣いが行き届くのね、感謝感謝」
健太 「皮肉なのか、からかってんのかわかんねぇんだけど」
梓 「事実とお礼を言ってるだけだよ。助かる、ありがとう」
健太 「おばちゃんには世話になったから、少しでも恩返しできればさ」
梓 「お母さんだけなの? 私もさんざんお世話したと思うんだけど」
健太 「あずは、お互い様だろうが」
梓 「えーー? 健太の世話になった覚えはないよ」
健太 「ひっでぇ」
梓 「……まぁ、姉と弟みたいだったよね」
健太 「俺が兄貴でお前が妹だろ」
梓 「私より成績悪い兄貴なんて嫌」
健太 「ガキの頃の話だろうが!」
梓 「だからガキの頃の話をしてるんでしょうがっ」
健太 「……確かに!」
梓 「あはははは」
健太 「……ちなみにさ」
梓 「ん?」
健太 「あずは、どうなの」
梓 「どうって何が」
健太 「……結婚」
梓 「えらく話飛んだな」
健太 「うるせぇ」
梓 「気になる?」
健太 「まぁな」
梓 「気になるんだ……」
健太 「そりゃ気になるよ。さっきの電話の彼氏とは、長いのか?」
梓 「まぁそこそこ。いいお付き合いさせてもらってます」
健太 「ふぅん」
梓 「結婚とか、そういう話はまだ全然だけどね」
健太 「いい付き合いなんだったらいいじゃん」
梓 「まぁね。
ただ……結婚してもいいかもなって、未来を考えられる人ではあるの」
健太 「へえ。どんなところに惚れたんだ?」
梓 「月並みですが、優しいところ」
健太 「お前の乱暴なところも受け止めてくれる器の大きいヤツってことか」
梓 「失礼ねえ!」
健太 「ほらこういうとこだぞ」
梓 「もう!」
健太 「……結婚決まったらさ、俺に一番に言えよな」
梓 「健太に一番に? 何でよ」
健太 「俺も最初にお前に言ったんだし」
梓 「え。私が最初だったの? 彼女は?」
健太 「プロポーズしようとしてるって話を言えるわけないだろ」
梓 「あ、確かに」
健太 「だから、フェアに行こうぜ」
梓 「うーんそっかあ……じゃあ私も、健太に一番に言わなきゃかぁ」
健太 「忘れるなよ?」
梓 「はいはい」
健太 「あと、連れてくるなら俺にも会わせろよな。
相手の男見定めてやるよ、変なやつだったらぶっ飛ばす」
梓 「健太のくせに」
健太 「何だよ。結婚に関しては俺が先行ってんだ、兄貴面させやがれ」
梓 「ふふふ、はいはい」
健太 「ま、せいぜい頑張れよ」
梓 「健太ほんとうざい」
健太 「うるせぇ」
梓 「……ねえ、健太」
健太 「ん?」
梓 「……いつになるかはわからないけどさ。
健太みたいに、彼と一緒にいることが当たり前だなって思えたら、
連れて帰ってくるからね。ちゃんと紹介するよ」
健太 「おう、約束な!」
梓 彼女との相合傘に慣れているからなのか、
傘をさしていても、少しでも近くにいようと傘を傾けてるからなのか、
肩が濡れる理由の本当のところはわからない。
確かめる気もない。
だって、健太のくせに、生意気だ。
ほんと、幼馴染って…………馬鹿だよね。