作:早川ふう / 所要時間 10分 / 比率 1:1 20131208 利用規約はこちら
待ち合わせ
男 「ごめん、遅れて!」
女 「遅ーーーい! 15分遅刻!」
男 「出がけにお袋から電話きちゃってさ」
女 「え、何か急用だったの?」
男 「大した用事じゃなかったよ。
年末はいつ帰ってくるんだ、とかそんなん」
女 「そう。年末か……どうするの?」
男 「今年は忙しいし、年始に挨拶行くよって言っておいた」
女 「年末、忙しいの?」
男 「まあそれなりに」
女 「そっかあ」
男 「安心しろよ、お前と過ごす時間が欲しいから実家に帰らないんだから」
女 「それって年末もデートしてくれるってこと?」
男 「お前さえ嫌じゃなければな」
女 「嫌なわけないじゃない」
男 「そっか」
女 「すごく嬉しい」
男 「うん」
女 「……久しぶりだよね、ここに来たの」
男 「ああ、そうだな」
女 「お店全然変わってなくて、なんか安心した」
男 「何か、昔に戻ったみたいだよな」
女 「うん、そうだね……」
男 「何飲んでたの?」
女 「キャラメルマキアート」
男 「はは、やっぱりそうか、好きだね〜」
女 「好きだよ〜。他の店のと違って甘すぎないのがまたいいんだ〜。
あ、何か飲む?それとももう行く?」
男 「せっかくだから俺も飲むよ。
すいません、ホットチョコレートひとつ」
女 「好きだね〜」
男 「他の店のと違って甘すぎないのがいいんだよ」
女 「あはは、甘いのだって飲むくせに」
男 「別にいいだろ」
女 「糖尿病にならないでよ?」
男 「そこまで不摂生してねーよ」
女 「どうだか。奥さんの目を盗んで、暴飲暴食してないの〜?」
男 「そんなことするわけないじゃないか、少しだけだよ」
女 「してるんじゃないの、バカ」
男 「ははは、……お前はどうなんだよ」
女 「え?」
男 「旦那の目を盗んで何かやらかしてないのか?」
女 「どうだろうねぇ〜。旦那は私一筋だからな〜。
まぁ何かしたとしてもバレるようにはしないけど〜」
男 「怖い女だなぁ」
女 「昨日も秘密のお出かけしちゃったんだよね」
男 「俺以外の男と?」
女 「まぁ、そうかもしれないね」
男 「それは妬けるな」
女 「ふふん、どんどん妬きなさ〜い」
男 「じゃあ訊くけど、昨日の秘密のお出かけ、って、なんだよ」
女 「気になる〜?」
男 「当たり前だろ」
女 「怖い顔〜」
男 「お前が妬けって言ったんじゃないか」
女 「まぁそうだけど」
男 「で? ……誰と?」
女 「やだ、本気にしてるの?」
男 「そりゃ気になるだろ」
女 「……じゃあヒントを出してあげましょう」
男 「もったいぶるなぁ」
女 「今度デートをする時は、もしかしたら、ここには来れないかも」
男 「何で?」
女 「まぁジュースを頼めばいいかな、とは思うけど」
男 「え???」
女 「……わかってないな〜?」
男 「ちょっと難しすぎるぞそのヒント」
女 「じゃあ次いこうか。
今日ってどこ行くつもりだった?」
男 「んー、観たいのあれば映画とか。
久々に夢の国でも行くか? 混んでるだろうけど」
女 「映画は大丈夫だけど、夢の国はちょっときついな〜。
あ、これ第二ヒントね」
男 「はあ?」
女 「じゃあ最大のヒント!
昨日の私のデート相手は、まだ男か女かわかりません。
会いに行ったのは女性の先生だけど」
男 「……っ、……それって!!」
女 「ふふふ」
男 「……なるほどねぇ。旦那さんと仲良くした結果ってことですかー」
女 「そうですねーそうなりますねー」
(ホットチョコレートが運ばれてくる)
男 「……あ、ホットチョコレートこっちです、どうも」
女 「まだ熱いよね」
男 「お前猫舌だからな、もう少ししたら一口やるよ」
女 「バレてた〜よろしくっ」
男 「……最近旦那さんとはどーですか」
女 「普通ですよ〜?」
男 「普通ですか〜?」
女 「……でも、昨日は嬉しかった」
男 「嬉しかった?」
女 「……付き合ってからは10年近く。結婚してからでも7年経つんだよね。
だからだいぶマンネリっていうか、空気になりつつあるの、わかってた。
子供もできなかったし」
男 「うん」
女 「……結婚してからは初めて言われたんだよ。
いつもありがとう、愛してる、って」
男 「……キザだな」
女 「恥ずかしがってるの伝わってきたもん。
キザで言われたならもっと冷めてる」
男 「ふーん、そんなものか」
女 「そんなものです」
男 「そうか」
女 「すごくすごく嬉しかった。
……ありがとう」
男 「別に……。
いつも言えなくてごめんな。……ちゃんとそう思ってるよ」
女 「うん。……私もいつもちゃんと思ってるよ。
ありがとう」
男 「おう」
女 「今日だってさ、ワガママ言って、わざと待ち合わせしてもらったんだし」
男 「ワガママなんかじゃないだろ。これくらいいつでもしてやるよ」
女 「付き合ってた頃みたいだね」
男 「照れるけどな」
女 「……たまにはいいよね」
男 「ああ、たまにはいいよな」
女 「これから、あまりできなくなっちゃうけど」
男 「これからにはこれからの楽しみがあるだろ」
女 「うん、そうだね」
男 「それでもたまにはデートもしよう。
息抜きは大切だろ」
女 「ありがとう……」
男 「今日は、どうする?」
女 「映画、行こうよ。
これから身体しんどくなるだろうし、映画に集中できるのも今のうちだから」
男 「そうだな。
じゃあどっかで軽く昼メシ食って、映画観よう」
女 「うん」
男 「昼何食いたい?」
女 「イタリアン」
男 「イタリアンかー」
女 「何かすごーくピザが食べたい!」
男 「デザートにケーキも頼むんだろ?」
女 「もっちろーん」
男 「太りすぎるなよ?」
女 「わかってますよーっだ」
男 「若くないんだから、そうむくれるなよなぁ」
女 「今日だけは若いつもりでデートしたいの!」
男 「そっか。……そうだな」
女 「ねぇ」
男 「ん?」
女 「昨日の、もう一回言って」
男 「ここで!?」
女 「だめ?」
男 「恥ずかしいだろ」
女 「お願い!」
男 「……いつもありがとう。アイシテルヨ」
女 「なんか棒読み……」
男 「だってこんな場所じゃないか!!」
女 「むーー、言ってよぉーーー」
男 「…………、あ、……愛してるよ。
子供が産まれてパパとママになっても、ずっと、俺の奥さんはお前だけだ。
ずっとそばにいてください」
女 「えへへ……っ、ありがとう……。
私の旦那さんも、ずっと貴方だけだよ。
私を奥さんにしてくれて、お母さんにもしてくれて、ありがとう。
これからもずっとずっとそばにいてください。愛してる」
男 「……、おう」
女 「……っ……」
男 「泣くことないだろう」
女 「だって嬉しいんだもん」
男 「化粧崩れるぞ」
女 「幸せすぎて我慢できない」
男 「そっか……。うん、俺も、幸せだよ」
女 「よかった……」
男 「……ティッシュ、使うか?」
女 「持ってるから平気」
男 「そっか」
女 「(涙を拭う)」
男 「俺もパパかぁ……」
女 「楽しみだね」
男 「ああ、そうだな」
女 「ベビー用品どんなの買おうかな……ベビーベッド買っていい?」
男 「いいよ。
そしたら部屋も少し片付けておかないとだよな」
女 「気が早いけど、嬉しいものはしょうがないよね」
男 「しょうがないしょうがない」
女 「ふふふ」
男 「あ、だいぶ冷めたけど、飲むか? ホットチョコレート」
女 「うん、一口ちょうだい」
男 「ほら」
女 「うん……甘い」
男 「甘いか?」
女 「うん。……私一生忘れないかも、この甘さ」
男 「俺も……忘れないかもな」
女 「また来ようね」
男 「ああ、また来よう」
女 「もう一口飲んでいい?」
男 「うん」
女 「ふふ……甘いなぁ」
男 「……そうだな」
(笑う二人)