作:早川ふう / 所要時間 40分 / 比率 1:1:1 20170718 利用規約はこちら
逢魔時の黒猫 〜屁理屈な氷面鏡〜
【登場人物】
僕
死を望んで、大きな池のある公園にやってきた。
性別不問。性別・年齢設定はご自由にどうぞ。
母
【僕】の母親。離婚後、仕事に勤しむ。
【僕】とはほとんど一緒にいる時間はとれない。
祖母
故人。【僕】の祖母で、【母】の母親でもある。
生前は、【僕】の面倒をみていた。
少女
受験が嫌になってしょんぼりしているモブキャラ。
黒猫
黒猫。『』の台詞は動物の姿での台詞。
特定の状況下で、人間の姿となり、人と会話することができる。
飄々としていてつかみ所がない。
【配役表】
僕・・・
母&祖母&少女・・・
黒猫・・・
僕 あれはたぶん、二月のはじめだったと思う。
誕生日のすぐあとの日曜日だったから。
母 「そんなに走らないの、危ないわよ」
僕 「だってお外楽しーんだもん!
あっ、ねえママー、お池が凍ってるよーー!!」
母 「そうねぇ」
僕 「ここでスケートできるかなあ!?」
母 「無理よここじゃあ。
……よくスケートなんて知ってるわね、テレビで見たの?」
僕 「うん!
やってみたいなーどこならできるの?」
母 「……パパに頼めば、連れてってもらえるんじゃない?」
僕 「今度パパいつ帰ってくる?」
母 「さあねぇ……おばあちゃんに聞いてみなさい」
僕 「わかった!」
黒猫 逢魔時(おうまがどき)、それは、一日が終わろうとする夕暮れ時。
昼であって昼でなく、夜であって夜でなく、
二つの時が交わり歪みが生まれる時間…。
私が私となれるのも、この僅かな時間しかありません。
そして、もうひとつ条件が揃えば、人の前にも現れることができるのです。
僕 ……思えば、あれが、最後の日だったんだろうね。
黒猫 『ニャー』
僕 今ならわかる、あの日、何があったのか。
黒猫 『ニャー』
僕 でも、それがわかったからって今何かが変わるわけじゃない。
現実は、何も、変わらない。
僕は、……ひとりだ。
黒猫 「にゃー……おっと……もう人の姿になってましたか。
この姿でにゃーと鳴いても冷たい目線しか貰えませんよねェ……」
僕 「……?」
黒猫 「あはは!
失礼いたしました。
いやー久々に人と話ができるもので、ちょっと感覚を忘れてしまって」
僕 「はァ……」
黒猫 「はじめまして。私黒猫と申します。
別にアブナイ奴じゃありませんから、そんな目はやめてくださいね」
僕 「……」
黒猫 「あああっ待って待って!
変な奴だ、関わらないでおこう、って思うのはわかりますけど、
ちょっとそのスルースキルはしまっておいてください!」
僕 「何か、僕に御用ですか」
黒猫 「ええ、まあ。
私、あなたの願いを叶えにきたんですよ。
……なーんて言うと余計怪しいでしょうか?」
僕 「そうですね、もっと怪しくなりましたね」
黒猫 「加えて、あなたの心の中をずばり当ててさしあげちゃったりなんかしたら、
……怪しさメーター振り切れちゃいます?」
僕 「もう若干振り切れてる気もしますけどね」
黒猫 「ハハハ。
それでも、あなたは警察に駆け込む気にはならないでしょう?」
僕 「どうしてそう思うんですか?」
黒猫 「これからすることを邪魔されたくないでしょうから」
僕 「へえ……。
僕が何をしようとしているのか知っているように言うんですね」
黒猫 「ええ。知っていますよ」
僕 「想像がつくでも、わかるでもなく、知っていると?」
黒猫 「……死のうとしていたんでしょう?」
僕 「……。よく、わかりましたね」
黒猫 「……あなたの想いは、すでに固い意志となっているようですから。
いつもなら、色々と茶化してみたりするんですけどね。
あなたにはそれも必要ないみたいですし」
僕 「あなたは……もしかして死神ですか?」
黒猫 「死神ではありませんよ、私は黒猫です。
まぁ、あなたから見れば、似たようなものでしょうけど」
僕 「もしかして、僕はもう死ねたんでしょうか?」
黒猫 「いいえ、残念ですが、まだあなたは生きています。
私は、この逢魔時、死にたいと思う人間、力の宿る鏡、
その3つの条件が揃った時、人の前に現れることができるんですよ。
その人間の願いを叶えるために」
僕 「なんか、悪魔っぽいね。
願いを叶える見返りに心臓を食べるとか、そういう感じ?」
黒猫 「別にそんなもの欲しくはないですよ。
私が欲しいのは、鏡の力です」
僕 「鏡の力?」
黒猫 「ええ。……でも……おかしいですね。
周囲を見渡しても……水でもあれば水鏡ということもあるんですが……
うーーーーん、何もありませんねぇ……」
僕 「何もないと、だめなの?」
黒猫 「だめというか……私が人の姿に戻れた以上、
どこかに力を持った鏡があるはずなんです。
その鏡が見つからないと、願いを叶えることもできませんのでお手上げですから。
どうにかして見つけないといけないんですが……」
僕 「昨日だったら雨降ってたし、水たまりができてたとは思うよ?」
黒猫 「ほんのわずかな時間では鏡に力は宿りません。
長い時間をかけて、想いをこめた鏡の力でないとね。
数時間あるだけの水たまりなどは論外です、想いのこめようがないでしょう?」
僕 「確かに」
黒猫 「……一応確認ですが、鏡のようなものは、お持ちですか?」
僕 「なんにも」
黒猫 「姿が映ればいいんですよ、たとえばカメラ……いえ、携帯電話などは?」
僕 「置いてきた」
黒猫 「やっぱりそうですよねぇ。
……いやーーー弱りましたね、ハハハ!」
僕 「別に無理して願いを叶えてもらわなくてもいいよ?
僕の願いは、僕自身で叶えることもできるから」
黒猫 「……成程。……ん?
ここは……工事中とありますけど、池か何かでしたか?」
僕 「ええ。池でしたけど、埋められてしまうそうですよ。
先週水抜きをしていました」
黒猫 「池……池の水ならワンチャン……でも……うーーーん……」
僕 「僕は毎年冬になるとよくここに来ていましたよ。
まぁ、もう来ることはなくなりますけど」
黒猫 「……冬の池……それですね!」
僕 「え?」
黒猫 「この池は、あなたにとって特別な場所ではないですか?」
僕 「まぁ……そう、ですね、ええ」
黒猫 「その池が、冬に凍って氷がはる……
それがあなたの鏡なのでしょう。
氷面鏡(ひもかがみ)というんですよ」
僕 「氷面鏡……」
黒猫 「こうして私が呼ばれた以上、私は仕事をしなくてはいけません。
あなたの願いを叶えます。
対価は……あなたが死にたいと思った理由を見せていただくこと」
僕 「別に何の願いもないよ?」
黒猫 「だとしても、……私は、私の仕事を、するだけです」
僕 「横暴だなあ」
黒猫 「周囲の時間は止まっていますし、
少し寄り道をしたと思って、お付き合いください」
僕 「まあ、いいですけどね……」
母 【おはよう。
今月分のお金です。無駄遣いしないようにね】
僕 リビングのテーブルの上には、
ママからの手紙と1万円札が2枚。
母 【授業参観と懇談会は欠席を出しておきました。
修学旅行のことだけど、学校に迎えには行けないから、ひとりで帰ってきてね。
荷物持てるよね、よろしくね】
僕 パパと離婚してから、ママは仕事ばかりでほとんど家にはいない。
おばあちゃんが生きていた頃はまだよかったけど、
今は荒れ放題の家に、いつもひとりだ。
母 【あと、少しは家を片づけておきなさい。
洗濯もするのよ】
僕 ……べつに、散らかってても誰も困らないでしょう。
僕以外、ここにはいないんだからさ。
黒猫 「ひとりだから、死にたいんですか?」
僕 「さあ、どうかな。別にこれが僕の普通だし」
黒猫 「学校に行けば友達がいるのでは?」
僕 「いないよ」
黒猫 「即答ですか」
僕 「友達も、勿論好きな人もいない。
家族もいないようなものだし、
僕という人間がひとり、この世から消えたところで誰も悲しまないし、困りもしない。
勿論僕も、僕自身の未来に興味すらない」
黒猫 「……達観されてますねぇ」
僕 「初めて自殺を考えたのは4年前だけど、
もしその時に黒猫と出会っていたらね……
願いだって明確にあったのに」
黒猫 「ほう、4年前ですか……」
祖母 『あんた、なんてことを……』
僕 『……ごめんね、おばあちゃん。
でも、……こうすれば、ママも帰ってくると思ったんだ。
パパだって会いに来てくれるよね?』
祖母 『……だから、こんなことを……?』
僕 『骨折でもインフルエンザでもだめなんだ。
このくらいしなきゃ……』
祖母 『馬鹿なことするもんじゃないよ。
こんなこと、絶対にしちゃあいけない』
僕 『……』
祖母 『……かわいそうに……。ごめんね、ごめんね。
私があんな娘に育てたばっかりに……』
僕 『泣いてるの……おばあちゃん……?』
祖母 『……笑って御覧。
あんたは世界一可愛いんだから。
ちゃんといい子だから。
笑って御覧……』
僕 『おかしくないのに笑えないよ。
それに、いい子でも、ママは帰ってきてくれない』
祖母 『忘れないでおくれ。
ばあちゃんは、あんたのこと、大好きなんだからね……』
僕 「初めて自殺を考えたすぐあと、祖母の病気がわかって。
……まぁ、祖母が死んだ時、久しぶりに母と会えたけど」
黒猫 「……なるほど」
僕 「もしその時だったなら、……祖母の健康を願ったよ。
でも、もう祖母はいない。
僕をこの世に繋ぎとめるものは、何もないんだ」
黒猫 「……本当にそうでしょうか?」
僕 「え?」
黒猫 「では、なぜあなたは、この場所を選んだんです?
此処を死に場所に選んだ理由は何ですか?」
母 『そんなに走らないの、危ないわよ』
母 『お外、楽しい?』
母 『これからあまり構ってあげられなくなっちゃうから……
あなたとここに来たかったのよ……』
僕 「……理由なんて、ないですよ」
黒猫 「ふふ、隠していてもわかることですけどね」
僕 「……僕は家庭を含めた周囲の環境に、ことごとく恵まれませんでした。
夢も希望もないので、死を選びます。
母と来た思い出のあるこの場所で、
せめて自分だけでも、自分を憐れんであげながら死にます。
……これでも不十分ですか?」
黒猫 「……いえ、じゅうぶんです」
僕 「だったらもう解放してくれませんか!?」
黒猫 「……困ったなァ。
やっぱりこれは、あなたを殺さなければいけないってことなんですかねぇ……」
僕 「殺してくれなくて結構です。
僕は自分で死にますから」
黒猫 「なるほど……。
……しかし、それを許さない人がいらっしゃるからなァ」
僕 「え……そんな人いるわけ……」
黒猫 「お呼びしましょう、どうぞ」
祖母 「……ばあちゃんは、あんたのこと大好きだって言っただろう」
僕 「っ!?」
祖母 「……いい子なんです。
この子は、ほんっとうに、いい子なんですよ……」
僕 「おばあちゃん……どうして……」
祖母 「ただ、父親が好きで、ただ、母親が好きで。
ただそれだけの、素直な子なんですよ」
黒猫 「氷面鏡に、おばあさまの姿が残っていましたので、
こうして呼び出してみたんです」
祖母 「この子は、なぁんも難しいことなんて望んじゃいない。
帰ってきて”おかえり”と声をかけてもらえること。
一緒に夕飯を食べること。
宿題を見てもらえること……」
僕 「やめてよ!!!」
祖母 「周りの子が当たり前に持っているものを、
この子はなぁんも与えられんかった。
パパさんが他に女を作ったのは、娘のせいじゃないかもしれないけど、
この子をこう育てたのは、間違いなく娘の責任で」
僕 「ちがう、ちがうちがうちがう!」
祖母 「かわいそうに……かわいそうに……!」
僕 「僕はかわいそうなんかじゃない!!!」
黒猫 「……おや?
かわいそうだと思われることは、嫌なんですか?
自分を憐れんで死ぬとおっしゃったのに?」
僕 「……黙れ」
黒猫 「おお怖い。
あなたが話してくださるなら、いくらでも黙りますとも」
僕 「自分の生まれ育った環境は、大人になれば変えられるのかもしれない。
でも、自分に根付いた思考は、変えられるものじゃない。
……僕は、誰からも必要とされない人間です。
祖母が死んだ今、もう誰もいないんです。
……だからもう僕に生きる意味もない。
祖母に会えて、嬉しいですよ。
でも祖母はもう生きてはいない。
なんと言われようと、僕はこれからも生きようとは思いません」
黒猫 「そうですか。
なんと言われようと、とお孫さんはおっしゃってますけど?」
祖母 「帰ってこない母親を待つこの子があまりにも不憫でね。
私は、諦めなさいと教えたんです。
娘はきっともう変わらない。
だから、大人になって、誰かを愛して……
愛した分だけ愛情を返してくれる人があらわれるまで待ちなさいと、
それまでしゃんと生きなさい、と……」
僕 「ごめんね、おばあちゃん。
僕は、……もうじゅうぶんだから」
祖母 「……何がじゅうぶんだろうね……」
僕 「……」
祖母 「……みんなの当たり前を欲しがることに疲れたんだろう」
黒猫 「……なぜ自分だけがこんなにも、と思うことに疲れましたか」
祖母 「死にたいなんて、この子の本心じゃないんです……」
黒猫 「そう思いたいですよねぇ」
祖母 「私が生きていた時も、この子の苦しみをとってやることはできなかった。
死んでも死にきれませんよ、これじゃあ」
黒猫 「そうでしょうね」
祖母 「けどねぇ、それも全部私のせいなのかもしれないから……
お腹を痛めて産んだ子を愛せないような女に、
私は娘を育ててしまった……」
黒猫 「負の連鎖かもしれない、と?」
祖母 「私がもう少ししっかりと娘を育てていりゃあ、
この子は、こうならなかったかもしれないでしょう」
黒猫 「ご自分を責めてらっしゃるのですね」
祖母 「申し訳なくてね……
ごめんねぇ……ごめんねぇ……」
僕 「……おばあちゃんは、僕を大事にしてくれたよ」
祖母 「けど、あんたの欲しかったものを、私はあげられなかった」
僕 「……」
祖母 「……こんな思いをさせるために、育てたわけじゃない。
愛されて、愛して、……幸せになってほしい。
娘はね、あんたを愛してはやれなかったけど、
幸せになってほしいから、名前にこの漢字を入れたはずだ。
まだあんたは、幸せになってないだろう……!!」
僕 「……僕は、わからないんだよ。
みんなが、クラスメイトや友達や彼氏彼女っていう名前の他人に固執する理由が。
親からも愛されなかった人間が、誰かを愛せると思うの?
愛がどういう気持ちなのかまったく想像できない僕が?
幸せって、たぶんその気持ちの先にあるものなんでしょう?
無理でしょう……絶対無理でしょう」
祖母 「……この子を助けてやってくれませんか。
お願いします、この子を生かしてやってください……!」
黒猫 「私は、死にたいと願う心の内側にある、
本当の願いを叶えるのが仕事です。
おばあさまの願いを叶えるのは、残念ながら業務外なんですよ」
祖母 「後生だよ……!
お願いします、お願いします……」
僕 「やめて、おばあちゃん……」
黒猫 「……これも仕事です、しかたありませんね。
あなたの命はここで終わります。願い通り。人としての一生が、終わります。
よろしいですね」
僕 「うん」
祖母 「あああ……」
黒猫 「では……叶えましょう、……あなたの、望みを!」
祖母 「……消えちまった……死んでしまったの……?」
黒猫 「……」
祖母 「こんな酷なことってないだろう……見たくなかったよ……うっ、うぅ……(泣く)」
黒猫 「ご安心ください。
……私は黒猫。……死神では、ありません」
祖母 「……けど、あの子は……」
黒猫 「確かに、死を望む思いは強く、他に示せる道も、ありませんでした。
本来であれば、安らかな最期を与えるべきでしたが、
……そうしたくはありませんでした」
祖母 「あの子は、生きて……?」
黒猫 「あのまま、元の世界に戻ったところで、そのまま予定通り死を選んでしまうでしょう。
それでは何の意味もありません。
ですから、確かに、今、お孫さんの人生は、終わりました」
祖母 「じゃあ……」
黒猫 「人としての生は終わりました。
しかし、新しい道の先に、お孫さんはいらっしゃいます」
祖母 「新しい道?」
黒猫 「……この氷面鏡は、とても大きな力を蓄えているようですね。
この池には、おばあさまもよくいらしていたんでしょうか」
祖母 「……この池の向こうに神社があってね。
娘のお宮参りも、あの子のお宮参りもしたんだ。
ことあるごとに、娘や孫の幸せをあの神社にお祈りしてたけど……」
黒猫 「なるほど……それを映していたからこんなにも大きな力があるんですね……」
祖母 「祈りなんてひとつも届かなかったけど……」
黒猫 「そうでもないですよ。
まぁ、まだお孫さんは、幸せを理解できるほどには、心の傷が癒えていません。
ですから私は、お孫さんに、時間薬(じかんぐすり)を与えました」
僕 『ニャー』
祖母 「黒猫……?」
黒猫 「はい、……お孫さんには、黒猫として生きていただきます。
いつか幸せを、受け入れることができるように……
人のそばで、人に寄り添って、ゆっくり傷が癒されるようにと。
鏡の力を使って、私ができるのは、……それくらいでした」
祖母 「……、この子の為に、考えてくださったんですね……」
黒猫 「黒猫は……死を願う人間の前にあらわれ、
その人間の心に触れ、その人間を導く【仕事】です。
……黒猫は、嫌でも人のそばにいなければいけない。
あなたが生きる意味を理解できるようになることが、
おばあさまの願いであり、お孫さんの願いにもあたるのではと」
僕 『ニャー』
黒猫 「おや、不服ですか?
……死にたいと言ったはずなのに、と嘆いておいでですかね。
まぁ、その姿では、どんなに悪態をついたところで、可愛い鳴き声ですがね」
祖母 「この子が……少しでも幸せを感じられるようになれれば……
私はそれを願うだけです」
黒猫 「それは、これからの黒猫としての仕事次第ですが、
よい出会いもあることでしょう、きっと、たくさんね。
お呼び出しして申し訳ありませんでした、おばあさまも、ゆっくりお休みください」
祖母 「ありがとう、ございました……」
僕 『ニャーニャー!!』
黒猫 「……これからあなたも、迷える人々の心の内を、知っていくんですよ。
逢魔時、死にたいと思う人間と、力のある鏡、
それが揃った時、あなたは人と言葉を交わすことができます。
その3つが揃うまでは、あなたは何もできません。
もちろん、自分で死ぬこともね。
時間はいくらでもありますよ、……人間をよく知る、チャンスです。
……グッドラック」
少女 「……はぁ……」
僕 誰か来た……
少女 「……もーやだ、受験……」
僕 「受験?」
少女 「え?」
僕 「えっ」
少女 「……あ、ごめんなさい、別に話しかけたわけじゃ……」
僕 「……。
……いやーびっくりしましたよ、久しぶりに人の姿になることができたもので」
少女 「は?」
僕 「私の名は……黒猫と申します。
では、見せていただきましょうか、あなたの心の内を……」