作:早川ふう / 所要時間 5分 / 比率 0:2 20130313 利用規約はこちら
片思いのカノン -とある吹部の百合模様2-
【登場人物】
森田茜(もりた あかね)
高校2年生。トランペットパート。控えめな性格。最近彼氏と別れたばかり。
宮川鈴乃(みやかわ すずの)
高校1年生。茜の中学の後輩で、トランペットパートで一緒だった。元気な性格。
鈴乃 「こんにちは先輩!」
茜 「あ! すずちゃん!」
鈴乃 「早速来ちゃいました!」
茜 「楽器持参とは準備がいいね」
鈴乃 「だって、早く吹きたかったんですもん!」
茜 「意欲があって大変よろしい」
鈴乃 「やった誉められた!」
茜 「でもほんとにうちの高校くるとは思わなかったよ」
鈴乃 「なんでですか? ここ受けるって言ってたじゃないですか」
茜 「だってすずちゃんの代はコンクールも優勝してるし、ソロコンの実績もあるのに、
うちの高校来るのはもったいないよ。
もっと吹部が有名なとこ行けばよかったのに」
鈴乃 「そんな高校行ったってつまんないですよ」
茜 「どうして?」
鈴乃 「先輩がいないじゃないですか」
茜 「何よそれ」
鈴乃 「先輩がいるからトランペットだって楽しかったんですよ」
茜 「またそんなこと言って」
鈴乃 「じゃなきゃお揃いの楽器買いませんって!」
茜 「まったく調子いいんだから」
鈴乃 「絶対先輩と同じ高校行って、一緒に吹きたかったんで、
この高校通えて嬉しいです! 制服も可愛いし!」
茜 「なるほど、目当ては制服なのね?」
鈴乃 「ええっ、違いますってー!」
茜 「はいはい。じゃあ、経験者だし、仮入部とかいらないよね?
もう入部届出しちゃう?」
鈴乃 「出しまーす!」
茜 「トランペットは今人数少ないからほんと助かる。
いっぱい頑張ってもらうからね」
鈴乃 「もちろんですよ!」
茜 「頼もしいな。じゃあ、早速今やってる曲の楽譜渡しちゃうね」
鈴乃 「はーい!」
(間)
茜 「……相変わらず暗譜早いのね、まだ数回流した程度なのに」
鈴乃 「それだけが取り柄なんで」
茜 「よく言うー」
鈴乃 「先輩こそ、相変わらず音のギャップ激しいですよね」
茜 「え?」
鈴乃 「普段暗いとは言わないですけど、控えめじゃないですか。
でも音はパワフルで情熱的!」
茜 「情熱的って……単にストレスを発散してるだけよ」
鈴乃 「ストレスって、……失恋のですか?」
茜 「えっ……?!」
鈴乃 「中2の時からずっと付き合ってた彼氏と冬に別れたって聞きましたよ〜」
茜 「なんでそこまで詳しく知ってるのよ」
鈴乃 「情報はいくらでも入ってきますよ、私友達多いんで!」
茜 「うわー、一体どこ情報なんだか、怖いな……」
鈴乃 「でも久しぶりに先輩の音聞けて嬉しいです。
音に深みが増してて、ちょっと悔しいのもありますけど」
茜 「あら、耳の肥えたすずちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな」
鈴乃 「その失恋が先輩の音に影響を与えたのが悔しいんですよ」
茜 「え?」
鈴乃 「……私、先輩が好きです」
茜 「……? 私もすずちゃんが好きだよ?」
鈴乃 「えっとだから……そういう、普通の意味じゃないっていうか何て言うか……」
茜 「え……」
鈴乃 「先輩に彼氏がいるの知ってたから、ずっといい後輩でいようと思ってました。
でも別れたって聞いて……そんな男の為に傷つくんだったら、
私が先輩のこといっぱい大切にするのにって思って。
私……先輩と一緒にいるために、この高校に来たんです!」
茜 「……すずちゃん」
鈴乃 「先輩が女で、私も女だってわかってます。
女同士でなんて、自分でも最初は戸惑いました。
でも、先輩を好きな気持ちは本当だから……。そういう意味です。伝わりました?」
茜 「……あの、私」
鈴乃 「ストップ!」
茜 「え?」
鈴乃 「今言ったって、先輩の答えがNOなのもわかってます。
えへへ、持久戦で行きますから!」
茜 「持久戦って……」
鈴乃 「先輩がこっち向いてくれるように、私これから頑張りますんで」
茜 「あの、だから私は……」
鈴乃 「もちろん部活も頑張りますよ!」
茜 「そりゃそうしてもらいたいけど、いや、そうじゃなくて……」
鈴乃 「今は後輩でいいです。
でも、できれば、先輩の支えになれる……友達みたいな後輩になりたいです」
茜 「……ありがと。気持ちは、嬉しいよ」
鈴乃 「そこで嬉しいとか言っちゃうあたりが、先輩なんですよね」
茜 「え、何が?」
鈴乃 「内心ものすごくテンパってるのに、そう言えるんですから」
茜 「だ、だって……好きって言ってもらえたんだから、一応ありがとうって、言わなきゃじゃん」
鈴乃 「好意をつっぱねることをしないんですもん。
そこにつけこまれて悪いヤツに騙されないで下さいよ?」
茜 「そんな物好きいないって」
鈴乃 「ま、これからは私がそんなヤツ近づけませんけど」
茜 「ちょ、ちょっと……」
鈴乃 「私、諦め悪いんで、覚悟しといてくださいね?」
茜 「覚悟って……」
鈴乃 「あ、無理矢理襲ったりしませんから安心してください。
そういうことは、先輩と気持ちが通じ合って、先輩が望んでくれるまで、絶対しません。
男なんかと一緒にしないでくださいね」
茜 「なんか見透かされててやだなぁ」
鈴乃 「当たり前じゃないですか。
私ずっと先輩のこと見てきたんですから」
茜 「ずっと?」
鈴乃 「中1の時から、ずっとです」
茜 「嘘っ!」
鈴乃 「ほんとですよ。
だから言ったでしょ?諦め悪いんですよ私」
茜 「……わかったよ。……でも、振り向かなくても恨まないでよ?」
鈴乃 「当たり前ですよ。私にとって世界で一番大切な人なんですから、恨んだりなんて絶対しません」
茜 「うわ、恥ずかしい」
鈴乃 「ふふふ。……ねぇ、先輩」
茜 「なに?」
鈴乃 「想われる、って案外いいもんでしょ?」
茜 「え?」
鈴乃 「元彼サンって、先輩から告白して付き合いだしたんですもんね?
ずっと片思いの続きみたいで、不安だったんじゃないですか?」
茜 「ちょっとそんなことまで知ってるの!?」
鈴乃 「知ってますよ?
だから、私が教えてあげます。
自分を好きだって言ってくれる人と一緒にいる幸せ」
茜 「……うーん……なんか、いいのかなぁこれ……」
鈴乃 「いいとか悪いとかそんなん関係ないですよ。
私は先輩が好き、ただそれだけですから」
茜 「……うん」
鈴乃 「でもほんの少しだけ……(茜を抱きしめる)」
茜 「わ!!!!!」
鈴乃 「あー……先輩の香りがする」
茜 「ちょ、ちょっと……」
鈴乃 「少しハグするくらいいいじゃないですか。それとも嫌ですか?」
茜 「い、嫌では、ないけど……」
鈴乃 「あはは、そこで嫌って言えばいいのに。
人がよすぎますよ、先輩」
茜 「う。だって、……ほんとに嫌ではないから」
鈴乃 「……嬉しい、です」
茜 「え?」
鈴乃 「えへへ」
茜 「…………ねぇ。い、いつまでハグしてるの?」
鈴乃 「もーダメですか?」
茜 「ダメっていうか、練習、するの!!」
鈴乃 「ちぇっ(離れて)……はーい、練習しますーぅ」
茜 「まったくもう」
鈴乃 「……大好きですよ、先輩」
茜 「わ、わかったから!! 練習ーーー!」
鈴乃 「あはは! はーい!」